新・ことば事情
4110「かしぐ」
鶴見俊輔『思い出袋』(岩波新書)を読んでいたら、「トゥーランドット姫」(172ページ)の中にこんな文章が出てきました。
《彼女たちは看護術をオランダ語で学んだので、私がなにかを言うとするときには、はじめはドイツ語にかしぎ、つぎに英語にかしいで何度か言うと、それは的確に伝わった。》
ドイツ語と英語ができる鶴見が、母語がマライ語でオランダ語と日本語をいくらか話す15、16~17、18歳の看護婦たちと話した際のことを書いているのです。この、
「かしぐ」
は、文脈から判断すると、
「翻訳する」
という意味のように思えるのですが・・・「かしぐ」にそんな意味、あったっけ?「傾ける」の意味の「かしぐ」から来ているのでしょうか?
『精選版日本国語大辞典』『広辞苑』にも、「かしぐ」に「翻訳する」という意味は載っていません。これは鶴見さん特有の言い方なのでしょうか?もしくは方言?また、
「言うとするとき」
という表現も、普通は、
「言おうとするとき」(あるいは「言わんとするとき」)
なのではないかなと思いました。?