新・ことば事情
4107「袖珍」
鶴見俊輔『思い出袋』(岩波新書)という本を読んでいたら、94ページの「言葉は使いよう」に、
「袖珍版のオックスフォード小辞典」
という言葉が出てきました。これまでにも見たことのあった、
「袖珍(しゅうちん)」
という言葉ですが、特に意味を確認することなく過ごして来ました。
常用漢字ではない「袖」は、訓読みで
「そで」
というのは誰でも読めますが、音読みの
「シュウ」
が読める人は少ない。熟語で言っても、
「(派閥の)領袖(りょうしゅう)」
ぐらいでしか、音読みの「しゅう」は使われていないのではないか?とかねがね思っていたのですが、そうそう、この「袖珍」がありましたね。
意味を調べると、何のことはない、
「袖珍=袖に入るぐらいの」
とあります。この「袖」は、「洋服」をイメージすると入らないな。もちろん「和服」。
「着物の袖=袂(たもと)」
ですね。お正月におじいちゃんの「お年玉」が出てくる、あの「袖」でしょう。え?おじいちゃんはお正月にも着物は着ていない?うちも、私の祖父までは着ていましたが、今の私の子どもたちのおじいちゃん(=私の父)は、着物を着ていませんから、袖からは何も出てきませんが。
話がそれましたが、「袖に入るぐらいの」は今で言う、
「ポケット版」
のことですね。「ポケットに入るぐらいの大きさ」なら、洋服でもわかりやすい。和服だと分かりにくいか。そんなこともないでしょう。そうすると、「珍」には
「隠す」
という意味があるのか?と思って漢和辞典(『新潮日本語漢字辞典』『新版漢語林』)を引いてみたのですが、「珍」には文字通り、
「めずらしい」「きちょうな」
という意味しかなく、「隠す」という意味はありませんでした。ただ『新潮日本語漢字辞典』には、
「貴重なものとして大切に扱う」
というところの例として、
「珍重・袖珍本・珍蔵」
とあって、「袖珍本」がありました。「袖珍本」は「袖に入る」のではなく、「貴重」なのか?
そこで『精選版日本国語大辞典』で「袖珍本」を引くと、
「袖の中に入れて持ち歩きできるほどの小さい本。袖珍版。袖珍」
とありました。うーん、堂々巡りのような感じになってきたぞ。うーん。
あ、そうか!
「袖珍本」というのは、元の意味は『新潮日本語漢語辞典』の言うように、
「珍しく貴重な本」
だったんだ!だからこそ、
「肌身離さず持ち歩いていた」
のではないか?しかし、本の大切さ・貴重さというのは持っている本人しか分からないことであって、周囲の人間から見ると、
「いつも持ち歩いている」
というところのみ、分かるので、
「いつも持ち歩いている本のことを『袖珍本』と言うように意味の変化があった」
のではないでしょうか?
まったくの「あてずっぽう」ですが、「珍」に「(袖に)入れる」とか「隠す」という意味がない以上、やはり「珍しい」「貴重」というところが出発点と考えざるを得ません。
いかがでしょうか?ご意見、お待ちしています!
しかし「袖珍」、「死語」もしくは「古語」ですよねえ。『新明解』だと「老人語」かな?一応、引いてみるか・・・。
「袖珍本=ポケットの中に入れて持っていける、小さい本」
特に「老人語」ともなんとも書いてありませんでした。