新・ことば事情
4054「血肉の読み方」
参議院選挙が終わりました。
タレント候補がいっぱい立候補しましたが、思っていたほど当選しなかったような気がします。
「いくら『知名度』があっても、やはり『それだけ』ではだめなんだ」
ということに、多くの有権者が気付いてきたという意味では、いいことじゃないかなと思います。
タレント候補として注目を浴びた一人に、大阪選挙区で民主党の2人目として立候補した岡部まりさんがいます。おなじみ某ABCの『探偵ナイトスクープ』の「秘書役」を21年もされて、大阪人にはすっかりおなじみの女性です。しかし今回は残念ながら、大阪の3つの席のうちの1つの獲得には届かず、落選してしまいました。その敗戦の弁を読売テレビ(日本テレビ)のニュースで見ていたら、このような言葉をおっしゃっていました。
「今回の選挙には寸分の悔いもなく、私のチニクとなりました」
この中の、
「チニク」
ですが、漢字で書くとやはり、
「血肉」
となるのでしょうね。でも・・・これ、本来の読み方は、
「ケツニク」
なのではないでしょうか?というのも、「ち」は「訓読み」で、「ニク」は「音読み」なのです。ほら、「肉汁」の正しい読み方は「ニクジュウ」で、よく間違って読まれるのが「にくじる」。これは「にく」が「訓読み」だと思っているところから生じているようだ、という話と同じです。「チニク」だと「湯桶(ゆとう)読み」になるのです。(「肉汁」に関しては、「平成ことば事情187肉汁」「平成ことば事情274肉汁2」「平成ことば事情487肉汁3」をお読み下さい。)
「チニク」は、おそらく、
「血わき、肉おどる」
からの連想で「ち」「にく」と言って(読んで)しまうのでしょう。
しかし、この岡部さんが言った言葉の字幕スーパーフォローで、1語で「ちにく」に、
「血肉」
と漢字をあててしまうと、
「チニクは正しい熟語、だとテレビ局も思っている」
と取られるからでしょうか、「血肉」の策・・・いやいや「苦肉」の策として昨日(11日)、日本テレビ(だったかな?)が使っていたのが、
「『血』と『肉』の間に『、』を入れる」
という手法でした。つまり、
×「血肉となり」→○「血、肉となり」
という形です。実は今日(12日)の「ミヤネ屋」でも、同じシーンを使いましたので、コメントフォロー・スーパーでは、それをそのまま、マネさせてもらいました。
(2010、7、12)
(追記)
ちょっと不安だったので、『精選版日本国語大辞典』で、「ちにく」を引いてみると・・・何と「ちにく」(血肉)が載っているではないですか!
一方、『デジタル大辞泉』『明鏡国語辞典』『広辞苑』『岩波国語辞典』『新明解国語辞典』『新潮現代国語辞典』には「ちにく」は載っていなくて、「けつにく」しか載っていませんでした。
『三省堂国語辞典』は「ちにく」が載っていました!しかも、「けつにく」は、
「けつにく」=(文)血のつながった一族」
という簡単な説明なのに対して、「ちにく」は、
「ちにく」=(文)①血と肉。また、肉体。②血のつながった一族。肉親。
と意味が2種類あり、「ちにく」を使った言い回しとして、
「血肉を分け合った」「血肉化」
も載せていました。ふーむ、そうすると、「ちにく」という読みで、いいのかな?そもそもの前提が、少し崩れてきました。それにしても「ちにく」を載せている辞書が少ないです。(私が調べた範囲では。)