新・ことば事情
4007「忽然と現れるか消えるか?」
「情報ライブミヤネ屋」の「ミヤスポ」のコーナーで、史上最年少プロテニス少女をご紹介しました。その原稿の中で、
「忽然(こつぜん)と現れた」
という表現がありました。これに関して、
「『忽然と』というと、普通は『消える』『消え失(う)せる』に使うのではないか」
という指摘がスタッフの中から起こりました。たしかにそういう場合に使うことが多いですよね。でも、『広辞苑』を引くと、
「忽然と現れた」
という用例も載っていますから「間違いではない」のですが、イメージとしてはやはり「消える」の方が強い気がします。Google検索してみると(5月27日)、
「忽然と現れる」= 3万6500件
「忽然と消える」= 1万9000件
「忽然と消え失せる」= 728件
と、「現れる」の方が「消える」の倍ほど使われています。「過去形」にすると、
「忽然と現れた」 = 49万3000件
「忽然と消えた」 =102万0000件
「忽然と消え失せた」=1万8600件
今度は「消えた」の方が倍ほど使われています。「忽」を平仮名にすると、
「こつ然と現れた」= 7万6600件
「こつ然と消えた」= 3万7200件
「こつ然と消え失せた」= 231件
と、「現れた」の方が倍ほど使われていました。
ということで、ネット上では結構「忽然と現れる(た)」も使われていました。
この週末に、タランティーの監督の『イングロリアス・バスターズ』のDVDを借りてきて見ていたら、第2章の字幕に、
「こつ然と現れ、こつ然と消える。」
と出てきました。やはり「こつ然」は「現れる」にも使うようです。
(追記)
斎藤美奈子さんの近著『ふたたび、時事ネタ』(中央公論新社:2010、6、25)の中の、
「『とてつもない新政権』誕生す」
の項目(もちろん麻生・元(!)政権誕生のときに書かれた・・・と言っても1年10か月前ですが)に、
「私たちの前には麻生新内閣が忽然と誕生しているのである。」(161ページ)
という表現で、
「忽然と誕生している」
というのが出てきました。「忽然」で、「現れる」方の使い方です。