新・読書日記 2010_104
『人間の建設』(小林秀雄・岡潔・新潮文庫:2010、3、1第1刷・2010、4、5第3刷)
評論家・小林秀雄と数学者・岡潔の対談集。昭和40(1965)年10月号『新潮』に掲載されたもの。3月に出てもう3刷ということは、結構、売れてます。この中で「ふーむ」と思ったのは、主に数学者・岡潔さんの発言です。
「無明ということを言っていないのはギリシャ人だけです。ギリシャ人は、人は理想が大事だといっているようにきこえる。理想というのは無明をこえた真な自分の心です。しかしアテネには、人の心の自由と、小さなほしいままの心とをはきちがえたところがあって、それがアテネが滅ぶ原因になっていると思いますが。」
「芥川もギリシャは東洋の永遠の敵である、しかし、またしても心がひかれると言っておりますね。」
「欧米の文明はギリシャから発したのですから、ギリシャをよく調べないと、わからないでしょうね。」
「ローマ時代は明らかに暗黒時代であって、あのときの思想は功利主義だったと思います。人は政治を重んじ、土木工事を求める。そういうものしか認めない。現在もそういう時代になってきています。ローマの暗黒時代そっくりそのままになってきていると思います。これは知力が下がったためで、ローマの暗黒時代は二千年続くのですが、こんどもほうっておくと、すでに水爆なんかできていますから、この調子で二千年続くとはとうてい考えられない。(中略)人類が滅亡せずに続くことができるのは、長くて二百年くらいじゃないかと思っているのです」
この話を聞いていると(読んでたんだけど、聞いてるような錯覚に)、「ギリシャはえらい!ローマはダメ」のように聞こえました。「ローマ人の歴史」を書いている塩野七生さんは、どう感じるのだろうか?と思いました。また「ギリシャ、昔は凄かったんだろうけど、最近は・・・」とも思いました。また、
「欧米人の特徴は、目は見えないが、からだを使うことができる。西洋音楽の指揮者をテレビで見ておりますと、目をふさいで手を振っている、あれが特徴ですね。欧米人の特徴は運動体系にある。いま人類は目を閉じて、からだはむやみに動きまわっているという有様です。いつ谷底へ落ちるかわからない。」
「いま日本がすべきことは、からだを動かさず、じっと坐りこんで、目を開いて何もしないことだと思うのです。」
という岡さんの話。あれ?これは養老孟司さんと、まったく逆の意見では?と、いろいろ刺激を受けました。