新・ことば事情
3960「ベンショー」
『声に出して笑える日本語』(立川談四楼、光文社知恵の森文庫:2009、4、20第1刷・2010、4、20第8刷)という本を読んでいたら、由利徹さんが
「ベンショー、バラしてくらあ」
と言っていたと、立川談四楼さんが書いていました。「小便(ショーベン)」」をひっくり返して「ベンショー」。それを読んで私は「ハッ!」としたのです。
私が子どもの頃、関西(大阪府堺市)では、関東で言う
「エンガチョ」
(この言葉を私が知ったのは、大学に入って東京に行ってからでした)と同じ意味の言い回しに、
「ベベンジョカンジョ、カギしめた!」
というのがあって、この、
「ベベンジョカンジョ」
の意味が分からなかった。「便所」なのかなあと、子どもの頃は何となく思っていました。それから網野善彦さんの本を読んだりして、「エンガチョ」と「結界」、「けがれ」の感覚が子どもの遊びの中に入っていたことを知りました。また、牧村史陽さんの『大阪ことば事典』で、
「ビビンチョ」
という言葉が大阪弁にあって、意味は「汚らしいこと。尾篭(びろう)なこと」で、
「『ビビンチョにさわろまいか、石かねもって来い』
などと、街角で馬糞などをうっかり踏みつけたりすると、仲間の腕白どもは、こういってはやし立てたものである。尾篭のビを重ねたもの、石金はひうち石のことなどと説かれているが、尾篭と石金との関連などに付いては説明されたものがない。」
とあり、さらに大坂では「極めて下等な茶屋女」(つまり街娼、夜鷹、でしょうか)のことを、「ビンショ」と呼んだと。その「ビンショ」は「下等な淫売」(そう書いてあるので、そのまま)なので、うっかり手を触れると毒でもうつされる、その毒消しに「石金=火打石」を使うことをさして、
「ビビンチョにさわろまい、石かねもってこい」
と言ったのであろうと。同じ意味で、
「ビビンチョ、カイチョ、カイチョもってはしれ」
というのもあるそうで、これなんぞは、私が子どもの頃の堺のはやし言葉によく似ています。そして、大正時代には「カイチョ」が「カンチョ」になっていたといいます。ちなみに「カイチョ」は明らかに「開帳」であると、いやはや、すごい話になってきました。付いて来てます?(女性陣は、なかなか付いて来られないのでは?)
また、京都では、
「ビンショあぶらしょ、天道さんに錠かけよ」
とも言ったそうです。
話がそれてしまった気がしますが、要は、私が談四楼さんの本で思ったのは、
「『ビンショー』というのは、『小便』をひっくり返した『ベンショー』から来ているのではないか?」
ということでした。ああ、話が回りくどかった。