新・ことば事情
3947「映画会社"を"急行」
4月22日の『ズームイン!!SUPER』で、最近映画を「字幕」ではなく「吹き替え」で見る人が増えているという特集をしていました。その理由をリポーターの堤信子さんが取材していたのですが、その中のコメントで、
「映画会社<を>急行」
というものがありました。これはあきらかに、
「映画会社<に>急行」
が正しいですね。その後「急行」がキーワードだったらしく、堤さんは、
「制作会社<に>急行」
「映画館<に>急行」
と、「急行」を繰り返していましたが、そこでは「に」でした。最初の「映画会社」だけ「を」と読み間違えたのか??それともなぜか「映画会社」だけ「を」と原稿に書かれていたのか?それは分かりませんが、「映画会社<を>急行」には強い違和感を覚えました。これが、
「映画会社を"急襲"」
なら正しい使い方だと思いますが。
最近、こういった場面で使われる助詞の乱れが目に付きます。日本新聞協会新聞用語懇談会放送分科会で改定作業中の『放送で気になる言葉・改訂新版』の改訂原稿でも、この問題「<に>か?<を>か?」を取り上げています。
まだ確定した原稿ではありません(たたき台)が、ここに載せておきます。
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「"に"?"を"? 正しい助詞の使い方」
展覧会のニュース原稿の中で使われた、
「作品"を"見入っていました」
というフレーズが気になりました。これは正しくは、
「作品"に"見入っていました」
でしょう。「見る」だけなら、その直前の助詞は「を」で「~"を"見る」に
なりますが、「見入る」となると、後ろの「~入る」の方が支配的で、複合語と
しては「~"に"見入る」の方が自然であろうと思います。
同じようなケースで、スーパーに男が押し入り、店員にカッターナイフで切り
つけたというニュースで、
「店員の女性"を"切りつけた」
という表現が出てきました。これも「切る」だけなら「を」でいいのですが、
「切りつける」となったら「に」の方がしっくりきます。一般的には「へ=
方向」、「を=目的」、「に=目的+方向」を表します。「切りつける」は、「目
的」に加え「方向性」が出てくるので「に」を使った方が良いのです。
こういった「助詞の使い方」については、国立国語研究所編『新「ことば」シ
リーズ14・言葉に関する問答集―よくある「ことば」の質問』(2001年)や、
日本語・フランス語教師・野口恵子氏の『バカ丁寧化する日本語~敬語コミュニ
ケーションの行方』(光文社新書、2009年)の中でも触れられています。
いずれにせよ、複合動詞の"前"の「助詞の使い方」には、注意が必要です。