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『道浦TIME』

新・ことば事情

3933「『ひこ』と『へこ』」

今年も甲南大学で前期期間、「マスコミ言語研究Ⅰ」という講座を持たしてもらっています。

開講に当たって、受講者(2回生から4回生)に、「ことばと私」というタイトルで、言葉に関する思い出を書いてもらいました。その中に、

「祖母は丹波の出身で、食べ物を食べていて、のどにひっかかってむせることを『ヘこに入る』と言います。それが方言なのかどうかは分かりませんが、祖母が昔からずっと言っているので、わが家でも使います。以前、友人と食事をしていたときに『へこに入った!』といったら『何それ?』と言われました。それで『「へこに入った」って、うちの家族しか使わないんだ』と思って、それからは『へんなところに入った』と言うようにしています」

というものがありました。それを読んで私は、

「『へんなところに入った』も、ヘンな誤解を受けそう・・・」

と思うと同時に、

「うちの母が『"ひこ"に入った』と言っているのと同じだ!」

と思いました。私も「ひこに入った」は、母の方言(三重・伊賀上野)と思っていたのですが、これは共通語なのか?「へこ」か「ひこ」か?どちらかが訛っているのですね。

で、『精選版日本国語大辞典』を引いてみると「へこ」はありませんでしたが、「ひこ」はありました!

「ひこ(小舌)」=「口腔(こうこう)の奥、咽喉(いんこう)の上に垂れている肉。のどびこ。のどちんこ。口蓋垂(こうがいすい)」

「小舌」と書いて「ひこ」と読むくんだ!

さらに『広辞苑』にも、

「ひこ(小舌)」→「のどびこ」に同じ。

「のどびこ」=「口蓋垂」の俗称。

「口蓋垂」=「咽喉の上部から下垂する円筒形の軟性突起。発音器官の一つで、上下に運動して呼気の流れを決める。懸壅垂(けんようすい)。のどびこ。のどちんこ。」

なんと「ひこ」「へこ」は「のどちんこ」のことでした!でも「のどちんこ」には入らないので、結局「ひこ(へこ)に入った」の意味としては

「のどの(食道のほうではなく)気管に入ったときに言う言葉」

のようですね。Google検索では(419日)

「ひこに入る」 =3

「ひこに入った」=2

「へこに入る」 =0

「へこに入った」=1

「小舌に入る」 =1

「小舌に入った」=0

でした。(「入る」「入った」を平仮名にして「はいる」「はいった」にしたら、1件もありませんでした。)「ひこ」も「へこ」も、ネット上ではほとんど使われていない言葉ですね。共通語だとしても、死語に近いのかもしれません。なお1件だけ出てきた「へこに入った」は、

「黒豆茶と和菓子の但馬遊月亭・店長代理スタッフの中島さん」

のブログでした。やはり、甲南大学生のおばあちゃんと同じ「但馬」です!中島さんがお店で「へこに入った」という言葉を使ったところ、

「湯村の方言でしょ」

と言われたそうです。中島さんは20のようですが・・・方言かなあ・・どうなんだろ、方言というより古語なんじゃないのかな?「へこ」はともかく「ひこ」は共通語のようだし。丹波の人は、彦根のマスコット「ひこにゃん」のことも、

「へこにゃん」

と言うのかな?

(2010、4、19)

2010年4月20日 12:27 | コメント (0)