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『道浦TIME』

新・ことば事情

3929「気色ばむ」

 

4月14日の「ミヤネ屋」で、司会の宮根誠司さんが「気色ばむ」を、

「きしょくばむ」

と言ったところ、視聴者センターに、

「『けしきばむ』ではないのか!」

という電話があったそうです。たしか普通は「けしきばむ」と読みますね。「きしょく」と読むのは「気色悪い」というケース。簡単な漢字ほど、結構何通りも読み方があって難しいというケースがあります。たとえば、

「人気」

これも、

「にんき」「ひとけ」

の2通りの読む方が考えられます。「人気がある」だと「にんきがある」でしょうが、「人気がない」だと「にんきがない」「ひとけがない」の2通りが考えられます。つまり文脈・コンテキストによって読み方が変わるので、そこだけ取り出したら「どちらも正解」と言えるけど、文脈に戻すと「どちらかは間違い」になってしまいます。

「気色ばむ」

に関しても国語辞典を引いてみたところ、なんと

「きしょくばむ」

という読み方の言葉も載っているではありませんか!『明鏡国語辞典』には載っていませんが、『広辞苑』『精選版日本国語大辞典』には載っていました。

「きしょくばむ」=(1)得意になって意気ごむ。意気軒昂となる。(2)怒りの気持ちを顔色に出す。けしきばむ。<広辞苑>

(2)の意味だと「けしきばむ」と同じですねえ。

ところで、この「気色」のあとに付く「ばむ」ですが、他に思いつくのは、

「汗ばむ」

ですね。ほかには、うわばむ?いや、どうしても「ばむ」というと、落語のご隠居さんと八っあんの「うわばみ(大蛇)」をめぐる会話を思い出す。

八「なんで『うわばみ』ってんですかい?」

隠居「う・・・それは・・・昔『うわ』というものがいたと思いなさい」

八「思いました!」

隠居「それが・・・『ばむ』んだな」

八「へえー、『うわ』てぇーのは、『ばみ』ますかね?」

隠居「ばむ!」

八「絶対ですか?」

隠居「絶対だ!」

八「なんで断言できるんですか?」

隠居「"ばま"なきゃ『うわばみ』にならない」

小学生の時に初めて聞いたときは、意味がよくわかりませんでしたが。

ほかの「ばむ」は「ついばむ」?違うな。

「気色ばむ」も「汗ばむ」も、名詞プラス「ばむ」という形ですね。つまり、

「気色+ばむ」「汗+ばむ」

「汗ばむ」はありますが、「涙ばむ」はないですね。同じような意味の言葉では、

「涙ぐむ」

はあります。「ばむ」も「ぐむ」も、「うっすら、にじむ程度の量」で、流れ出したりはしないですね。「気色ばむ」も「うっすら」なんでしょうか?

ここで、『精選版日本国語大辞典』「ばむ」を引いてみました!載っていました!

「ばむ」=ものの性質や状態を表すような名詞、またはこれに準ずる動詞連用形や形容詞語幹などに付き、これを動詞化する。そのような性質をすこしそなえてくる、また、そのような状態に近づいてくるの意を添える。「なさけばむ」「汗ばむ」「けしきばむ」「老いばむ」「おかしばむ」「よしばむ」「赤ばむ」「黄ばむ」など。

 

おお、「黄ばむ」は知っています!「なさけばむ」「老いばむ」「おかしばむ」「よしばむ」「赤ばむ」は知りません。

それにしても、色に関して言うと、なぜ「赤ばむ」「黄ばむ」はあって「黒ばむ」「白ばむ」「青ばむ」がないのでしょうか?「黒」は「黒ずむ」はあるな。「紫ずむ」もありそう。

「ばむ」って、なんだかおもしろいですね。

『逆引き広辞苑』「ばむ」を調べると(便利だな)、

「青ばむ」「赤ばむ」「戯(あざ)ればむ」「汗ばむ」「貴(あて)ばむ」「怪しばむ」「老いばむ」「おかしばむ」「隠ろへばむ」「枯ればむ」「嗄(しゃが)ればむ」「気色(きしょく)ばむ」「黄ばむ」「気ばむ」(これは違うかな)「黒ばむ」「気色(けしき)ばむ」「懸想(けそう)ばむ」「心ばむ」「戯(ざ)ればむ」「白(しら)ばむ」「痴(し)ればむ」「白(しろ)ばむ」「好きばむ」「煤(すす)ばむ」「血ばむ」「塵(ちり)ばむ」「萎えばむ」「情けばむ」「生(なま)ばむ」「馴ればむ」「鈍(に)ばむ」「濡ればむ」「辺(ほとり)ばむ」「優(やさ)ばむ」「痩せばむ」「窶(やつ)ればむ」「由(よし)ばむ」「脇ばむ」

以上、38もの「ばむ」が載っていました!「黒ばむ」「白ばむ」「青ばむ」、すべてありました!私が知らないだけでした!「血ばむ」は使ったことありますね。あとは、あまり使ったことがありません。

「ばむ」は「~のように見える」というような意味もあるようですね。

「ばむ」、おもしろーい!「おもしろばむ」?

ばむばむ。

ついでに「涙ぐむ」の「ぐむ」を『広辞苑』で調べたら、

「ぐむ」(接尾)=「体言について五段活用の動詞を作る。『・・・を含む』『・・・のきざしが見える』の意。」

として、用例では「涙ぐむ」「芽ぐむ」を使っていました。

それから「黒ずむ」の「ずむ」は、『広辞苑』『精選版日本国語大辞典』の見出し語にはありませんでした。 

(2010、4、15)

2010年4月19日 21:05 | コメント (0)