新・ことば事情
3919「生ゲンカ」
『ミヤネ屋』で昨日も出てきて、「そんな言葉あるのか?」と思いながらも今日は" "(カッコ付き)の読み方で読んでしまいましたが・・・・。菅大臣と亀井大臣の・・・
「生ゲンカ」
って・・・・どやさ???「生放送」はあるけど。「ケンカ」の前に付くのは、普通は「兄弟」「親子」「夫婦」など「ケンカをする当事者の関係を示す言葉」ではないでしょうか?あ、「口ゲンカ」もあるか。やはり『おもいっきりテレビ』の、
「おもいっきり生電話」
の影響でしょうか?Google検索(3月30日)では、
「生ゲンカ」=628件
「生げんか」= 8件
とネット上でさえ、ほとんど使われていない言葉でした。使ってしまいました・・・
こういうふうに『ミヤネ屋』のスタッフにメールしたところ、原稿を書いたディレクターから、こんなメールが。
「"生"ゲンカについてですが・・・絶対そんな言葉、存在しないですよね(笑)
とはいえ、菅VS亀井の面白さは『生放送というリアルタイムでケンカしたこと』なので、敢えて『生中継』『生放送』などをもじった言葉として書きました。 ニュアンスが伝わるように軽快に読んでくださった道浦アナ、ありがとうございました!
正しい日本語としては確かに間違っているのですが、ナレーションという音で表現できるテレビのVTR原稿は多少『遊ぶ』のもアリかなと思うのですが、遊びすぎでしょうか・・?」
うーん、そこまで考えていたのならカッコ付きで「許容」かなあ。まあそう思ったからこそ、「生ゲンカ」部分を立てるようにして読んだわけですが。
そのほかの、原稿をチェックしたデスククラスからも次々とメールが!
「この原稿のチェックを担当しました。かつて、松任谷由実がインタビュー記事で、自分が伝えたいニュアンスが今の日本語に無い場合、新しい言葉を作る(創る)のも、また大切なことだと言っていました。言葉を『守る』ことの重要性はよくわかっているつもりですが、言葉を『創造』していくことの重要性も、同じように感じます。現職の大臣、しかも党首クラスの大臣が生放送でケンカをするのに、『生ゲンカ』というのは、このVTRのこのナレーション部分に際しては、まさに的確な表現であったと思います。『生中継』とか『生放送』という言葉を理解できる人なら、『生ゲンカ』という造語のニュアンスは、ちょっと皮肉な意味合いをこめて伝わると思います。 生で電話すれば『生電話』だし、現職の大臣が生中継でひたすら掃除するという番組があれば、『現職大臣が異例の"生掃除"』でもいいと思います。そして、現職の大臣が生でケンカすれば、『生ゲンカ』でしょう。ステレオタイプな言葉を使い、表面的なナレーションを書いてくるディレクターが多い中、このように、目線を与えてくれるナレーションは、とても良いと思います。ディレクターの皆さんは、逆にこの論議を参考にして、本当に伝わる言葉とは何か、ということを考えてほしいと思います。」
「僕も月曜日にこの原稿をチェックしました。その日の原稿で、一番、コレだ!と思ったフレーズです。」
さらに、私の前日にこの原稿を読んだHアナウンサーからも!
「すでに前日・月曜放送の原稿で『生ゲンカ』が出てきていました。読み手としては下読みの段階で、『お、読み慣れない言葉が出てきたな』てな感じで、さぁ、扱いをどうしようかとチェック。要は『視聴者に伝わるか、伝わらないか』なので、この文脈なら伝わる、と判断して、「 」付きのニュアンスで少々強調し、そのまま使いました。伝わる、と判断した背景には、テレビ朝日の番組『朝まで生テレビ』の存在があります。このタイトルは、番組の売り物である政治家の過激的討論のイメージと直結していて、いまや「生OO」ということばは、テレビなどの媒体を通して赤裸々な主張をする表現としては一般化しています。特に今回の場合、菅大臣と亀井大臣という、まさに政治家中の政治家である閣僚の赤裸々主張であり、内容も過激的討論そのものだったので、『生ゲンカ』は、初見の言葉ながら、ほとんどの人に無理なくそのニュアンスを伝え得る言葉だと感じました。
言葉に工夫をして新たな表現を生み出し、より視聴者に内容を細かく伝える努力はすばらしい。しかし、新たに造られた言葉が頻出するのは好ましくないでしょう。視聴者が混乱し、番組を落ち着いて観られなくなります。今回のように、時折、ハマる新語を出して『お、やるな』と思わせる程度にお願いします。」
これに対して私は、ほぼ同じ思いですが、一つだけ付け加えさせてもらうと、
「品位」
ということです。「生ゲンカ」は、新しく作った言葉ということもあり(なじみがないから?)どうしても「品位」の点では一歩譲らざるを得ない感じがします。それだけに、「伝わる、伝わらない」に加えて、「場面を考えて使う」必要があるのではないでしょうかと思いました。