新・ことば事情
3916「寒空のもと?した?」
ドキュメントのチーフ・プロデュサーS君から質問を受けました。
「ホームレスの人たちの生活に関しての原稿の読み方なんですが、『寒空の下』と書いて、『した』でしょうか?『もと』でしょうか?」
うーん、難しいなあ・・・「運動会」の場合は、
「青空の下(もと)」
だし、「日本国憲法」は
「法の下(もと)の平等」
音楽では、
「♪双頭の鷲の旗の下(もと)で」
(これは、もしかしたら「した」だったかも)
で、ともに「もと」と読むけど、この場合、
「寒空の下(もと)」
と読むと若干の違和感が。なぜ違和感が生じるか・・・考えてみました。
結論。
「もと」と読む場合は、その「下」の漢字の前にあるものの「庇護下」にあって、何らかの恩恵を受けている場合に使う。つまり、「青空=好天」という恩恵に恵まれて「運動会」が無事に、中止にならずに開かれるし、「憲法」の護りによって「平等」が担保されるという恩恵がある。「双頭の鷲の旗」つまり、「軍旗」の下(もと)に「統率される」「グループとしての一体感」を形成するというプラス効果がある場合には、「下」と書いて「もと」と読む。そうでなく、単に物理的にポジションとして、「下」にある場合は普通に「した」と読むのではないか。
反対語で考えると、「した」の反対は「うえ(上)」ですが、「もと」の反対は「はし(端)」ではないか。そうすると「もと」は「元」であり(あとで、これは「許」であることがわかりましたが)、「中心」=求心力があるように感じます。
そう考えると、ホームレスの人たちは「寒空」によって、なんら恩恵を受けていない、それどころか、「寒空」はホームレスの人たちにとってはマイナス要因として働いているので、この場合は「もと」とは読まずに、「した」と読むべきであろう。
こういう結論を出してS君に伝えました。
今までに、ここまで考えて読んでいたかと言うと・・・ここまでは考えていなかったね、実際。でも感覚的には、何となくそう感じていたように思います。
ここまで書いてから「もと(下・許)」を、辞書で引きました。
*『広辞苑』②影響の及ぶ範囲。(例)「両親のもとで育つ」「一定の条件のもとで成立する」「警察の監視のもとにある」
*『精選版日本国語大辞典』(三)その影響や支配を受ける範囲。(例)『青年』(1910-11)<森鴎外>「(略)鋭い一瞥の下(もと)に」:『自由と規律』(1949)<池田潔>「(略)如何なる制度のもとに運営されているのであろうか」
*『デジタル大辞泉』③その規制や支配力の及ぶところ。(例)「厳しい規律のもとで生活する」「監視のもとにおかれる」
やはり「影響力「支配力」というのがポイントのようです。プラスかマイナスかは関係ないかな。それと同時に、『デジタル大辞泉』には、「もと」の1番目の意味として、
①「物の下の部分。またそのあたり。した。(例)「旗のもとに集まる」「桜のもとに花見の宴を設ける」
とあるほか、
②そのひとのところ。そば。(例)「親のもとを離れる」
とあります。この①の「旗のもとに集まる」は単に「した」ではなく「理念を同じくする人の方に」という意味合いを持っていると私は思いますね。それと②の「もと」は、単に「そば」ということでなくて 「影響力」「支配力」も関係していると思うけどな。どうなんでしょうか。
なかなか、奥が深いですね、「した」と「もと」。