新・ことば事情
3909「預入か?預け入れか?」
郵政民営化を、元に戻すように動くのかどうか、亀井大臣と他の大臣が戦っていますが、そのひとつに、ゆうちょう(郵便貯金)の限度額を現在の1000万円から2000万円に上限を上げるという案の扱いがあります。このニュースを伝える時に、
「あずけいれ」
の書き方に2種類あることに気付きました。
「預入」と「預け入れ」
です。新聞各紙は、
「預入」=読売・産経・日経
「預け入れ」=朝日・毎日
でした。日本テレビのお昼のニュースでは、
「預入」
を使っていたので、NNN系列の読売テレビの「ミヤネ屋」では、それに従いました。
ふつう、複合語が動詞で使われる場合は、送り仮名を使って「預け入れ」と書きますが、例外として慣用に従って送り仮名をつけないものもあります。『新聞用語集2007年版』の132-136ページによると(抜粋)、
「年寄(相撲)」「貸付(金)」「貸付額」「貸付残高」「貸付手形」「貸付枠」「受付期間」「関取」「張出横綱」「進退伺」「取締役」「社員見習」「事務取扱」「見習工員」「退職願」「戸籍係」「博多織」「春慶塗」「備前焼」「鎌倉彫」「売上高」「積立金」「取次店」「見積書」「立会人」「借入金」「仮払伝票」「小売商」「取扱期間」「引当金」「繰越高」「振込金」「割増金」「割戻金」「請負」「消印」「小切手」「小包」「作付面積」「貸方(経済用語)」「気付(あて先)」「書留」「受渡期日」「受取(領収証の場合)」「切手」「切符」「両替」「割引」「振替」「染物屋」「釣具店」「仕立屋」・・・
などの特定の領域の語で慣用が定着していると認定されています。金融関係が多い感じがしますね。このほかにも、
「合方」「合言葉」「合服」「浮足」「浮草」「浮名」「浮橋」「浮袋」「建物」「建前」「奥書」「引換券」「居合」「沖合」「待合室」「建売住宅」「建坪」「木立」「星取表」「子守」「役割」「割合」「夕立」「字引」「手引」「水引」「忌引」「高利貸」「差出人」「封切館」「身代金」「指図」
といった言葉も、送り仮名を伴いません。まだこの段階に至っていないとされているのが、
×「焼肉店」→○「焼き肉店」
×「生花」 →○「生け花」
です。郵政民営化問題もややこしいですが、漢字(送り仮名も)って、本当に難しい・・・というかややこしいですねえ・・・。
コメント
ゆうちょ銀行の貯金規定に使われる用語は、ほとんど送り仮名がありません。基本的に名詞として使っているようです。「預入」「一部払戻し」「カード預入」「暗証払」「機械預入」「機械払」「振替」「振込」「払込み」。ATMの正式名称は、新聞用語集では「現金自動預払機」と送り仮名なしでしょうか?
×「生花」 →○「生け花」=「せいか」と読むと、生の花(⇔造花)を連想します。『広辞苑』の「生花」の項によれば、いけばなも「生花」と書いて「せいか」、流派によっては古称の「しょうか」と読むそうです。「挿花」とも。そうか…。かの北大路魯山人は、食に関する随筆の中で「生物」を「生き物」「生ま物」と書き分けています。「生ま物」はイレギュラーな送り仮名だとおもいますが、ちょっと目からウロコでした。
投稿者: 西尾@川崎 日時:2011年02月27日(日) at 18:34