新・ことば事情
3903「万引きの言い換え」
3月12日の毎日新聞に、認知症の「ピック病」の患者が、「店頭などから物を持ち去る症状」について、「万引き」ではない呼び名を検討しているという記事が載っていました。
私は初めて耳にするこの「ピック病」というのは、脳の前頭葉と側頭葉が萎縮して起きる認知症で、発症はアルツハイマー病よりも若く、50~60代の男性に多いのだそうです。判断力の低下で行動や感情を抑えられずに特異な行動を取るようになり、「万引き行為」などをしても、違法であると認識できないこともあるそうです。
NPO法人の「若年認知症サポートセンター」(宮永和夫理事長)が、この1~2月に全国23の家族会・支援団体にアンケートをした結果、46の言い換え案が集まり、それが以下の6つに絞られたのだそうです。
「支払誤認」
「支払健忘」
「自任行動」
「買い物実行障がい」
「無意購入」
「ゲートアウト」
早ければ今月(3月)中にも決めるそうなので、また決定したら、報道されるかもしれません。つまり、「病気の症状として起こる『店頭などから物を持ち去る症状』」と、「一般の万引き」とを区別するということですねえ。
なかなか難しい問題ですねえ。
病気の名前を、たとえば「精神分裂病」を「統合失調症」に、「痴呆症」を「認知症」に変更したというのは、最初は多少(慣れていないこともあって)抵抗がありましたが、意外に早く、すんなりと社会に溶け込んでなじんだように思います。やってみると、
「ああ、そういうことなのか」
と理解できました。というのは、やはり前の病名に染み付いた「病気に対する偏見」が、新しい名前とともに薄れ、それと同時に、新しい理解(たとえば昔と違って治療法が進んでいることとか)を促すきっかけになるということです。
そういう意味ではまさに、いわゆる「万引き」とは違うのだと主張することで、「ピック病」への社会の理解を促進するきっかけになるように思います。
それでちょっと思い出したのは、よく我々のような番組(「ミヤネ屋」)で放送している、スーパーで万引きをする人を、スーパーの警備員の人が捕まえて問い詰める様子を撮影した特集です。あれも、もしかしたら「ピック病」の人の行動のケースもあるのかな?そういうのを撮影するのはいかがなものか?ということになるのでしょうか?もちろん、顔を映さない(モザイクをかける)などの措置は取って、プライバシーには配慮しているつもりではあるのですが・・・。
いろいろと、難しい問題だなあと感じたのは、そういうこともあったからです。