新・ことば事情
3891「まぶち」
今年の直木賞作家・佐々木譲の直木賞受賞作で連作短編集『廃墟に乞う』(文藝春秋、2009、7、15第1刷・2010、1、20第2刷)を読んでいたら、「復帰する朝」という作品の中に、
「中村由美子はハンカチを取出し、メガネの下のまぶちを何度もぬぐって言った」(308ページ)
という一文が出てきました。この文の中の、
「まぶち」
という言葉、わたしは
「まぶた」
の誤植ではないか?と一瞬思いましたが。私が買った本は「初刷」ではなく「2刷」でもありますし、誤植ということはないだろうと。「まぶち」の「ま」は「目」のことでしょうから、
「まぶち=目の縁」
の意味であろうと推測しましたが、はたしてこれが標準語なのか、それとも方言なのか?
『精選版日本国語大辞典』で「まぶち」を引くと、載っていました。
「まぶち(目縁・眶)」=目のふち、まなかぶら。また、まぶた。(日葡辞書(1603-04)
と出ていました。「目」偏に「匡」なんて漢字、初めて見ました!あ、でも、
「上がりかまち」(「上がりがまち」)
の「かまち」というのは、漢字で「匡」を使っていなかったっけ?「上がりかまち」は、「土間から上がるところのふち」
という意味ですよね?調べてみると、「かまち」は「木」偏に「匡」でした!「匡」には「ふち」というような意味がありそうです。それにして、日葡辞書の時代(17世紀初頭)には使われていた言葉なんですね!『広辞苑』でも同じように載っていました。(『広辞苑』には「まぶた」の意味は書かれていませんでした。あくまで目のふち。)
しかし、この言葉が現代も使われているのかどうかはわかりません。あまり耳にしたことも目にしたこともない言葉でした。Google検索(3月15日)で、
「まぶち、目のふち」
と検索すると、1170件でした。決して多い件数ではありませんが、辞書のようなサイトが多くひっかかってきました。