新・ことば事情
3871「『づくし』と『ずくめ』」
去年(2009年)10月2日の「ミヤネ屋」の芸能パネルのコーナーで、内田裕也さんの服装についての部分で、事前のチェックで、
「黒づくめ」
という表記が出てきましたので、
「黒ずくめ」
に直しました。「づ」「ず」「じ」「ぢ」は「四つ仮名」と呼ばれるもので、使い分けが難しいのですが、
「黒ずくめ」は「ず」
「黒づくし」ならば「づ」
なのです。漢字で書くと、両方とも、
「尽くし」
なのですが・・・
『新聞用語集2007年版』によると、
「心尽くし(こころづくし)」
「黒尽くめ(くろずくめ)」
「結構尽くめ(けっこうずくめ)」
という使い分けになっています。
これに関しては、平成ことば事情3669「異例づくしか?異例ずくめか?」で書きました。そこで載せた、専門家の早稲田大学非常勤講師の
『四つ仮名は、「現代仮名遣い」の方針にかかわることで、かなり人為的な、もっといえば恣意的なものですね。
「心づくし」に対して、「黒ずくめ」「力ずく」になる理由は、「つくす」や「つく(つきる)」とのつながりが感じられるかどうかによります。
漢字で書くと、両方とも、「尽くめ」「尽くし」なのですが、「~づくし」は動詞「尽くす」の意識が残っているのに対して、「~ずくめ」「~ずく」は、もはや動詞とのつながりが感じられなくなっているというわけです。
実際、「ずくめ」「ずく」の語源が直感的に分かる人は少ないでしょう。
『日本国語大辞典』によれば、「~ずくめ」は「ヅク(尽)に接尾語メの付いた語」とありますが、語法としてはイレギュラーです。「~ずく」については語源の説明もありません。実際のところ、「尽くす」から来たのか、「尽く(尽きる)」から来たのかも(私にとっては)あいまいです。
「出ずっぱり」とか「つまずく」なども、「出突っ張り」「爪付く」という語源を考えれば「出づっぱり」「つまづく」でよさそうなものですが、語源が忘れられたために、本則は「ず」を使いますね。これらと同様でしょう。
しかし、それなら「こぢんまり」は「小+ちんまり」から来ていることを意識している人は少ないと思いますが、なぜか現代仮名遣いでは「こじんまり」とはしないのですね。恣意的だと私が思うのは、こういう点です。』
飯間さん、ありがとうございます。
また、日ごろ新聞用語懇談会でお世話になっている、日本新聞協会の金武伸弥さんのコメントも再録します。
「『新聞用語集』115~116ページに、
《1、 仮名の使い方は、おおむね発音通りとする。「ぢ、づ」は原則として「じ、ず」を用いる。》
とあり、例外として、117ページに、
《5(2)2語の連合によって生じた「ぢ」「づ」は「ぢ」「づ」と書く》
ことになっています。(例:はなぢ=鼻+血、みかづき=三日+月)
「心尽くし」「あいそづかし」は「心+尽くす」「あいそ+尽かす」ですから2語の連合で「こころづくし」「あいそづかし」です。しかし、同じページの後に、
《なお、次のような語は、現代語の意識では2語に分解しにくいもの等として「じ、ず」を用いて書く》
とあり、「うでずく」「くろずくめ」などが挙げてあります。
「黒ずくめ」「結構ずくめ」などの「ずくめ」は、漢字は「尽」を当てますが、接尾語で、単独でも「つくめ」と発音しません。したがって「黒+つくめ」ではなく、「黒+接尾語ずくめ」であると解釈します。
「腕ずく」「金ずく」「力ずく(力任せ)」も同様で、単独でも「つく」と発音しません。したがって「腕+つく」ではなく、「腕+接尾語ずく」であると解釈します。 (下線は道浦)
同じ漢字を当てても「人妻」は「人+妻」で2語の連合ですから「ひとづま」、「稲妻」は現代語では「稲+妻」の意識はなく、1語ですから「いなずま」とします(語源的には「稲の妻」なのですが。そこで『新聞用語集』118ページには内閣告示「現代仮名遣い」は「いなづま」も許容しているが、この用語集では本則に従う。とあります)
また、「力が付いてくる」という意味の「力付く」は2語の連合で「力づく」です。
このことは拙著『王道日本語ドリル』の「間違えやすい仮名遣い」の項にも解説してあります。」
金武さん、ありがとうございます。
詳しくは『王道日本語ドリル』(集英社新書)を読んでみることにいたしましょう!いや、もう読んだんですけどね、もう一度・・・。