新・ことば事情
3862「七奉行の読み方」
先週、2人のアナウンサーから同じ日に質問を受けました。
「民主党の『七奉行』の読み方は『シチ奉行』か?『なな奉行』か?」
「民主党の七奉行」というのは、
「岡田克也、前原誠司、野田佳彦、仙谷由人、枝野幸男、玄葉光一郎、樽床伸二」
の各氏のことですね。このうち4人は現職の大臣です。名付け親は、民主党の「黄門様」こと渡部恒三氏。これはもちろん、その昔の自民党の、
「竹下派七奉行」
になぞらえていますよね。「竹下派七奉行」というのは、
「小渕恵三、橋本龍太郎、梶山静六、小沢一郎、羽田孜、渡部恒三、奥田敬和」
の七人。渡部さんも入っていました。このうち3人が総理大臣になっているのですから、すごいです。そのほかの人も政界で力を振るってきました。
さて、この質問にあった「民主党の七奉行」ですが、私はこれまで何回か、
「シチ奉行」
と読んできました。
「七」の読み方に2種類あるのはご存じの通りですが、古い時代は「シチ」と読みます。「なな」になったのは明治30年(1890年代後半)以降と見られています。ですから、現代の話であっても、「奉行」のような古い(江戸時代)言葉に付く「七」には、「シチ」がふさわしいと思います。ちなみに「シチ」と読むものには、
「四十七士」(シジューシチシ=赤穂浪士・忠臣蔵)
「七回忌」(シチカイキ)、「十七回忌」(ジューシチカイキ)
「七人の侍」(シチニンノサムライ)
「七代目」(シチダイメ)※これは「ななダイメ」と言うこともある。
「七段」(シチダン=囲碁・将棋・武道の段位)
「七福神」(シチフクジン)
などがあります。関西は「なな」の勢力が強いように感じます。商売の関係でしょうか?
数年前に問題になったのは、将棋の羽生善治さんが「七冠」になった時、
「ななかん」
と読む人が多かったですが、正しくは「シチカン」であるという声が専門家の間から出ました(柳瀬尚紀氏など)。
また、太宰治の『十二月八日』という作品の中では、「皇紀二千六百年」(=昭和15年)という時代を舞台に100年後の「皇紀二千七百年」の「七百年」部分の読み方について、登場人物が、
「『ななひゃくねん』はおかしい。『シチヒャクねん』でなければ!」
と話すシーンがあります。
そもそも漢語に関して「なな」という読み方は、明治の中ごろ、商売・経済関係で出てきたようで、当時はその語の響きに関しては否定的な意見も多かったようです。
ただ、言葉に詳しいNHKの知り合いに聞くと、
「今回の民主党の『七奉行』は、まだ出てきたことがないが、竹下派・七奉行のときは『なな』だった」
とのこと。え・・・そう言われるとちょっと気持ちが揺れます。
また小学館で辞書を作っている知り合いに聞くと、
「いわゆる名数で、七賢・七雄・七福神・七島などは音で『シチ』なので、『七奉行』も『シチブギョウ』になるのかもしれませんが、『ナナブギョウ』とで『ゆれ』があるのではないかと思います。『ナナブギョウ』と読まれることが多いとすれば、『シチ』の言いにくさも関係があるのかもしれません。」
とのことでした。
「シチとななの読み方」に関しては、助数詞との関係でどう変わるのかに関して、「平成ことば事情2657 NHKアクセント辞典に見るシチとななの変化」に書きましたので、そちらもお読み下さい。