新・ことば事情 3786
「二人称としての『うぬ』」
10月中旬、遅ればせながら、「ミヤネ屋」のオパネリストでもある崔洋一監督の『カムイ外伝』を見ました。17世紀が舞台で、その意味でも「蜷川マクベス」的、「シェイクスピア的」な感じがしました。ちょっと危ない系の「殿様」の衣装なども。
その中で、「二人称」を指すときに出てくる言葉が気になりました。それは、
「うぬ」
でした。今は使いませんよね、「うぬ」。映画の舞台からのイメージだと、「沖縄語」なんだけどな。(ロケは沖縄で行われたそうですし)
ネット検索したら「狼魔人日記」というサイト(沖縄在住の沖縄県民の視点で綴る政治、経済、歴史、文化、随想、提言、創作等、何でも思いついた事を記録する)に
『日本語には、「吾(われ)」と「汝(なれ」」の入れ替わりが行われる例。
なれ 【汝】が、「おの(己)」の転用で、うぬ 【汝/▽己】 に変る。そして二人称で相手を罵る場合、汝(なれ)が己(おのれ)に変る。つまり「おのれ」は相手を罵倒する二人称でもあり、自分を表す一人称としても使われる。それがを端的に表す御馴染みの言葉は「自惚れ(うぬぼれ)」』
と載っていました。自分を指す一人称の「おの(れ)」が音韻転換で「うぬ」になったのか!
「ono 」→「unu」
ということは「o」→「u」への母音が変わったと。確かに沖縄の言葉(方言)を指して、
「ウチナーグチ」
というのは、
「沖縄口(オキナーグチ)」
の母音「o」が「u」に置き換わって、
「ウチナーグチ」
になったと、どこかで読んだ覚えが。それと同じだ!やっぱり「うぬ」は沖縄ぽかったのかな。
初めて沖縄に行った時におみやげで買った『沖縄おもしろ方言事典』(沖縄雑学倶楽部編、創光出版:1991、9,7第4版)という本を紐解くと、「沖縄方言の基礎知識」の「第二章=音韻」に、
『母音が「ア、イ、ウ」の三音しかないため、「エ列」は「イ列」に、「オ列」は「ウ列」に発音する。この原則を知って沖縄方言を聞くと、多くの単語は、日本語そのものがなまったものであることがよくわかる』
とありました。しかし『精選版日本国語大辞典』で「うぬ」を引くと、
「うぬ(汝・己)」=(1)対称。相手をののしったり軽んじたりする場合に用いる。(2)(反射指示)自分自身のこと。侮蔑的に用いる。てめえ自身。
とあり、ともに用例は17~18世紀という古いもの(江戸時代)でした。つまり「うぬ」は、特に沖縄の言葉、というわけではなく、古くからある言葉のようですね。
うぬ、わかった。それは「うむ」。