新・ことば事情 3765
「1500万円のアクセント」
鳩山由紀夫総理が母親から、
「月々1500万円」
累計で9億円とも11億円とも言われるお金を、「知らないうちに」もらっていたことが報道され、弟の邦夫・元総務大臣も、同じように「月1500万円」をもらっていて、
「生前贈与に当たるというなら払う用意がある」
とコメントしていました。これが事実なら払うのは当たり前ですから、
「偉そうに言わなくても・・・」
ということはさておき、また内容の是非(「是」があるのか?)はともかく、注目したのはこの「1500万円」のアクセントです。これまでアナウンサーは、
「セ\ン・ゴ/ヒャクマ\ンエン」
というふうに「セン(1000)」の部分と「ゴヒャクマンエン(500万円)」を分けてアクセントの山が2つ(1つ半?)できるような読み方をしてきたと思います。今もそれが正しいと思うのですが、最近よく耳にするのは、
「セ/ンゴヒャクマ\ンエン」
というふうに、つなげて読む、アクセントの山が1つの「中高アクセント」、いわゆる「コンパウンド」された形の読み方です。これが平然と行われています。アクセントは、時代とともに言いやすいように変わるものですから仕方がないのかな、と思っていましたが、今回の"事件"に関連して出てきた「1500万円」で「ハッ」と気付きました。
「中高アクセント」で「コンパウンド」することによって、実は重要な変化が現れてしまうのです。
ここで皆さんに質問です。
「①セ\ン・ゴ/ヒャクマ\ンエン」と「②セ/ンゴヒャクマ\ンエン」
どちらの方が、金額が高く聞こえますか?
・・・・おそらく、
「①セ\ン・ゴ/ヒャクマ\ンエン」
の方が金額が「高く」、
「②セ/ンゴヒャクマ\ンエン」
の方が「安く」感じるのではないでしょうか?
これはそもそも「コンパウンド」は、「その言葉をよく使うことにより、言いやすい形にする」ことで起きているのですから「1500万円」という言葉をよく使うと、コンパウンドするようになるのです。
「万」を取った形の「1500円」のアクセントに関しても、皆さんはコンパウンドした、
「セ/ンゴヒャク\エン」
の方がよく使われていませんか?昔は、
「セ\ン・ゴ/ヒャク\エン」
と言っていたのに。これは「1500円」という言葉を、つまり金額を、よく使うようになったからですね。つまり、
「『1500円』の価値が(昔に比べて)相対的に下がっている」
ことを示しているのではないでしょうか?
「セ\ン・ゴ/ヒャク\エン」
というと、たとえコンビニで払うとしても、うやうやしく(?)「千円札」と「五百円玉」を出す感じですが、
「セ/ンゴヒャク\エン」
だと、
「すみません、一万円札でお釣り下さい」
という感じにならないでしょうか?感覚的に。
ここで問題なのは「1500万円」、母親からもらっていたというそのお金の価値が、「コンパウンド」して読むことによって下がってしまうのではないか、
「大した額じゃ、ないじゃん」
というイメージを与えてしまうのではないか?という問題です。
昔であれば「1500万円=千五百万円」は、「一」をつけて重々しく、
「一千五百万円(イ/ッセ\ン・ゴ/ヒャクマ\ンエン)」
と読まれたことでしょう。(この間、私は「ミヤネ屋」の中でのこのニュースの金額は「一」をつけて読みましたが。)
このアクセント変化は、価値のインフレ(価値の相対的下落)を示していると思いますが、それをさらに加速させるような読み方をこのケースではするべきではない、といううのが私の意見ですが、いかがでしょうか?
ちなみに、新聞用語懇談会放送分科会が去年秋にまとめた『放送で使用する助数詞』の冊子では、「15」という数字とそれと結合した助数詞のアクセントに関して、最近よく耳にするアクセントパターンに警鐘を鳴らしています。それは、
「15本」「15人」「15個」
といった言葉で、やはり「コンパウンド」した「中高アクセント」の、
「ジュ/ーゴ\ホン」「ジュ/ーゴニ\ン」「ジュ/ーゴ\コ」
というアクセントです。本来は、
「ジュ\ーゴホン」「ジュ\ー・ゴ/ホン」
「ジュ\ーゴニン」「ジュ\ー・ゴ/ニ\ン」
「ジュ\ーゴコ」「ジュ\ー・ゴ\コ」
といったアクセントが使われていたものですが、最近急速に「コンパウンド・中高アクセント」が広がっています。これに関して、備考欄で、
「最近増えているが、標準にはふさわしくない」
という注意書きをしています。この「15」と同じようなアクセント変化が、「1000」台の「1200」「1300」「1400」「1500」・・・というところで、急速に広がっているというのが2009年末の現況です。「1000」台のアクセントにも「注意書き」をすべきだったと思います。去年の段階では、それほどは目立っていなかったように思うのですが・・・。
(2009、12、9)
(追記)
12月11日の日本テレビ『ニュースリアルタイム』で原稿を読んでいた今野キャスターが、盗まれた金額の、
「15万円」
を、最初は、
「ジュ\ー・ゴ/マンエン」
と正しく読んだのに、思い直したように、
「ジュ/ーゴマ\ンエン」
と読み直してしまいました。いまや「コンパウンド」した読み方の方が主流、ということでしょうかね。
コメント
確かに納得です!!!
投稿者: 確かに 日時:2009年12月11日(金) at 09:07