新・ことば事情 3707
「柳ヶ浦か?柳ケ浦か?」
地名の表記で出てくる「ケ」と書いて「が」と読むもの、この「ケ」にも2種類あるのにお気づきでしょうか?「大きいケ」と「小さいヶ」です。以前、「平成ことば事情3415八ヶ岳」で書きましたが、またそういった事例が出てきました。九州の地名であり高校の名前でもある、
「柳ヶ浦」
です。この「ケ」は大きい?小さい?新聞を見ると、
「読売新聞」だけが「小さいヶ」
で、
「朝日・産経・毎日・日経・スポニチ・報知」は「大きいケ」
でした。なぜでしょうか?ちなみに「柳ヶ浦高校」のHPは「小さいヶ」でした。
各社の知り合いに聞いてみたところ、
<朝日新聞>
「柳ヶ浦」の「ケ」や、「1カ月」の「カ」は大文字表記にしている。元々、「1箇月」などと書かれていたものだが、箇の略体「个」がカタカナの「ケ」に似ているため、代用されたもの。これが、さらに格助詞「が」にも代用され「柳ヶ浦」「霞ヶ関」のような表記になった。朝日が「ケ」「カ」を大文字で表記するのは、五十音表に「ケ」「カ」の小文字が存在せず、「ケ」「カ」の小文字に対応する発音の役割がないから、というのが理由。ただし、見出しなどでは、バランスを考慮して「やや小さいフォント」を使用する場合もある。「ケ」「カ」を小さく表記している理由は、おそらく「ケ」「カ」にほとんど意味がない、ということなのだと思う。「柳ヶ浦」を「柳浦」、「霞ヶ関」を「霞関」と書いても、ほとんど問題はない。事実、「阿佐ヶ谷」「阿佐谷」など両用の表記を持つ地名もあるのだから。ただ、「1カ月」を「1月」と書くと、どう読めばいいのか迷う場合もある。「ケ」「カ」は「読み手の手助けにする符号」なのだとの考えに基づけば、小さく表記することも一つの選択肢だろう。また「小さいケ」は使っていない。そういう字は2006年までの文字一覧にはなかったが、その後追加された。しかし、日常的に使っていない。
<産経新聞>
産経は固有名詞のもとの表記がどうであろうと、「ケ」「ガ」は「小さな字を使わない」というのを、一応の原則としている。しかし例外もあり、取材記者が「どうしても小さな字を使ってくれ」と言えば、あっさりと通してしまうこともあるようだ。
<毎日新聞>
「柳ケ浦」に限らず、毎日ではこの手の固有名詞すべて「大きなケ」にしている。社員で「小さなヶを署名に使いたい」と「強い希望」を出した記者もいたが、却下したこともあった。個別の対応が難しいので「すべて小さなケ」か「すべて大きなケ」かの二者択一になる。毎日新聞では昔から記事では「大きなケ」を使ってきたので、外部の申し入れなど変える大きな理由も特になく、そのままにしているというのが実態。
また、1996年12月毎日新聞のコラム『読めば読むほど:校閲インサイド~「ケ」と「ヶ」は他人の関係 』(軽部能彦記者)によると、
『1ケ○円、3ケ月間、神奈川県茅ケ崎市......。ケと書いてあるのに、なぜか、それぞれ「コ、カ、ガ」と読みます。片仮名は表音文字ですから、ケをほかの音に、しかも三つの音に読ませるというのはルールに反します。では、このケはなにものでしょう。片仮名は主に漢字の画を省略して出来上がっておりケも「介」を簡略化した文字です。ところが「1ケ」「3ケ月」のケは、数をかぞえるときなどに使われる漢字の「个」が変わってできたもの、あるいは「箇」の竹かんむりの一方を拝借したものであるとか言われています。どうも片仮名のケとは、他人の関係らしいのです。姿かたちが似かよっているというより、今では両方とも区別なく「ケ」を使っていますから、もはや一心同体じゃなくて二心同体になってしまったわけです。それでも「1ヶ」「3ヶ月」などと、小さく記すことがあるのは、片仮名となんとか書き分けようという気持ちの表れでしょうか。茅ケ崎市の場合も「正式には茅ヶ崎と小さく表記する」そうで「1947年10月に市になる際、出された政府の通達が小さかったから」(同市役所)だとか。ところで、毎日新聞では「1ケ」「3ケ月」とはせず、「1個」「3カ月」と書くようにしています。人名や地名のような固有名詞は別ですが、そのときでも、大きな文字が使える見出しなどのほかは、「茅ヶ崎市」といったようにはしていません。新聞記事の文字はもともと小さいのに、さらに小さい文字を使うと読みづらくなるからです。』
とのことです。ふーむ、いろいろ事情はあるようですね。その後出てきた、茨城県の、
「龍ケ崎市」
の「ケ」は「大きい」のだそうです。うーん、ややこしい!市役所のHPの「ケ」は確かに大きかったです。ほんとに、ややこしい!
(2009、10、14)