新・ことば事情 3715
「半純血のプリンス」
今年の夏、映画『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の日本語吹き替え版を、子どもと一緒に観に行きました。
この映画のタイトルの「謎のプリンス」に当たる部分の英語原題は、
「the Half-Blood Prince」
つまり直訳すると、
「混血の王子」
なのですが、「混血」という表現には差別的なニュアンスがあるために、映画の日本語訳タイトルでは、「謎のプリンス」となっています。3年前に日本語の翻訳本が出た時点で、一部の放送関係者の間で少し話題になりました。
私はまだ、日本語の翻訳本は読んでいなかったのですが、今回映画を観ていたら、「謎のプリンス」というタイトルとは別に、
「半純血のプリンス」
という言葉が出てきました。「the Half-Blood Prince」に当たる部分は「謎のプリンス」に置き換えたのではなかったのでしょうか?なぜ「半純血」などという、日本語としてこなれない表現が出てくるのでしょうか?(「半純血」は、紛れもなく、「混血」の言い換え表現でしょう。)
これは映画の吹き替えだけの問題なのか、それとも日本語翻訳本でもそうなっているのか?気になったので、すぐに近くの図書館で本を借りて来て読んだところ、本の松岡佑子さんの訳が、
「半純血のプリンス」
となっていました。映画の字幕屋さんが「半純血」と付けたわけではないようですね。
もう一点、気づいたのは、日本語翻訳本・下巻の表紙カバーの折り返しの所に、
「謎のプリンス(the Mysterious Prince)」=「原作ではthe Half-Blood Prince。ローリングは翻訳にthe Mysterious Princeを使うことを許可した」
という注釈がついていたことです。
本や映画のタイトルは「謎の」を使うことで「混血」を避けたが、本文の中では(日本語としてはこなれていない)「半純血」という表現を使わざるをえなかったようですね。
最初は違和感を覚えた「半純血」という言葉ですが、本を読み進むにつれて、「マグル(人間)」と「魔法使い」という2つの異なる「種」が「半分半分」ということを指していることから、「血が混ざる」という意味の「混血」ではなく、(こなれていないとは言え)「半純血」とせざるを得なかった心情も分かる気がしました。その意味では英語の、
「the Half-Blood」
が一番分かりやすいですね。直訳して、
「ハーフのプリンス」「ハーフ王子」
でも良かった気もするが、軽すぎますかね、それじゃ。
(2009、10、15)