今回の配達先は、世界一の馬術大国ドイツ。ここで馬専門の獣医師をしている佐藤俊介さん(31)へ、静岡県で暮らす父・博司さん(61)、母・るみさん(54)の想いを届ける。
ドイツ北東部の田舎町デールブリュックは競技用の馬の繁殖地として知られ、ペットとして馬を飼う人も多い町。俊介さんはこの地にある馬の総合病院「フェアートプラクシス デールブリュック」に勤務している。スタッフは、獣医師8人と看護師12人。病院には常に25頭ほどが入院し、手術を待っている。手術は外来が始まる前に行われ、俊介さんも早朝から準備に追われる。そして手術を終えると、9時から外来がスタート。院内は診察待ちの馬でいっぱいになる。忙しい外来の合間には、術後の馬のケアも。背中が張っている馬に施したのは、なんと鍼(はり)治療。4年前に導入したこの技術は俊介さんがアメリカで学び病院に持ち込んだもので、今では俊介さんの鍼を求めて海外からやってくる馬もいるという。
立ったままパンをかじって昼食を済ませた俊介さんは、休む間もなく往診へ。毎日5~6件ある往診は、すべて俊介さんを指名した依頼だ。この日の訪問先は、術後の経過が良くなかった馬。さまざまな獣医に診てもらったものの原因が分からず、俊介さんにたどりついたという。今回は治療方法として整体を選び、外側から骨に触れてアプローチ。さらに痛みをとるため、内側から直接臓器を触るという施術も行った。
朝5時から昼2時まで働いた後に向かったのは自宅。ようやくひと息ついて、娘の瑛茉ちゃん(2)と家で飼うポニーの散歩を楽しむ。馬の厩務員をするためにドイツに渡ったという妻の恵理香さん(36)とは、馬好きが縁で結婚。俊介さんにとっては家族3人で過ごすこの時間が喜びだが、午後にも仕事があるため、一緒にいられたのはわずか30分。家族と全く会えない日も多い。実は、家族よりも馬と接する時間の方が長いという生活は幼い頃からで、いとこに誘われ5歳で乗馬を始めると、中学から本格的に馬術の道へ進んだ。毎日厩舎に通いつめ、高校3年のときには国体で優勝するまでに。その後、獣医師になり、馬とともに生きるこの町と病院にたどりついた。今年からは、妹の杏菜さんも後輩の獣医師として同じ病院に勤務している。
人手不足の状態でも8時間のシフト制を守るドイツ人獣医師に対し、自ら休みを返上して診察にあたる俊介さん。この日も午後8時過ぎに終えた往診の後には夜勤が控えていた。こうして時間を度外視して働き続けるのは、小児科医である父の影響だという。「どんなときでも患者さんの対応をして、休みもほとんどなかった。でも、患者さんのために働く背中に憧れたりもして。本当に僕の一番尊敬している人です」。
休むことなく馬を診る息子の姿に、父・博司さんは「うれしく思いますけど、僕とまったく同じことをやっている。そんなところは似なくていいのに…」と苦笑いする。ただ、博司さんは同じ小児科医になってほしいとは思っていなかったそうで、「僕も父にやりたいことをやれと言われて小児科医になった。息子にも自分の好きなことをやれと、それしか言ってないですね」と明かす。
あるとき急患の連絡が入り、急いで現場に向かった俊介さん。ペットとして飼われている馬は人間でいえば100歳を越える高齢馬で、駆けつけた時にはすでに倒れていた。深刻な病態の馬をその場で治療するのは難しく、病院に移動して処置を続けることに。だが、一旦は落ち着いたものの、馬は再び倒れてしまう。そんな様子に、解決法を探っていた俊介さんと院長は安楽死させることを選んだ。時に最も辛い選択を迫られることもある獣医師。「そうやって馬を助けるというのも1つの仕事。辛いですけど必要な選択です」と俊介さんは言う。
馬に魅了され、ドイツに渡り6年。「最終的なゴールとしては、僕がお世話になった日本の馬たちの助けになるような仕事ができたら。ドイツにあるような馬の病院を日本に作って、そこで働きたいです」。そう将来の目標を定め奮闘する息子へ、両親からの届け物は父が愛用していた聴診器。そして「これで若き日の私と同じに様々な経験を積んでくれたら嬉しいです」「俊介らしく 馬バカ道へ真っしぐらに突き進んで下さい」というメッセージが添えられていた。「めっちゃいい聴診器だ! 毎日使うものなのでありがたい」と感激する俊介さんは、「感謝しかないですね。これを受け取って、もっと心が近くに感じるようになったというか、両親との距離が縮まったような気がします」と喜びを語るのだった。