今回の配達先は、アメリカ・サンフランシスコ。ここでフードトラックを経営する横山恵梨香さん(42)へ、北海道で暮らす母・富子さん(74)、姉・千穂美さん(49)の想いを届ける。
恵梨香さんは2年前、全長8メートルもある中古のフードトラックを購入。約1年前からおむすびを提供するフードトラック「TOKACHI MUSUBI(十勝むすび)」の営業を始めた。おむすびにはエビフライやコロッケなど、アメリカ人が大好きな揚げ物や肉を中心としたガッツリ系の具材を挟む。中でもこだわったメニューが、故郷である北海道・帯広名物の豚丼をアレンジした「ブタムスビ」。そして一番人気は恵梨香さん特製のから揚げを使った「カラアゲムスビ」で、SNSで出店日をチェックして毎回来てくれる常連客もできた。
サンフランシスコにはフードトラックのために作られた公園があり、早い者勝ちの申し込み制で場所を取ることができる。売り上げは天候に大きく左右され、運よく晴天だったこの日の売り上げは約13万円だった。ただ、公園の場所代が3万円ほど。またアルバイトの最低時給が2千円以上と定められているため、人件費など必要経費を引くとほとんど儲けは出ないという。さらに営業終了後、30分かけて向かったのはフードトラック専用の施設。サンフランシスコの決まりでトラックは専用の場所にとめなければならず、毎月約14万円で借りている。実は、恵梨香さんは運転免許を取得する前にフードトラックを購入。しかもその後、営業許可が出るまで10か月かかることが判明し、それまで毎月駐車場代を支払い続けていたそう。すべてが想定外だったが、「周りからも無謀だよって言われました」と恵梨香さん。トラックで調理と販売を終えた後も、キッチンの掃除で油まみれになる。「フードトラックはただのお金儲けでやろうと思ったら絶対にできない。割に合わないし、もっと簡単に稼げることがいっぱいあると思う」というほどハードな仕事だが、それでも辞めないのは「やっぱりフードトラックが楽しいから」だと語る。
恵梨香さんは22歳の時に日本でアメリカ軍兵士と結婚。24才で娘のアキラさんを出産し、1年後に離婚した。アルバイトで生計を立てていたが、学歴やキャリアがない自分が成功するには起業しかないと考えた恵梨香さんは、チャンスを掴もうと無謀にも7歳だったアキラさんとサンフランシスコに移住。母娘2人食べていくために眠る間も惜しんで必死に働いた。そんな頃に経験したのが、フードトラックのアルバイトだった。仕事の楽しさが忘れられず、フードトラックでの起業を決意。夢を支えにとことん節約して貯金し、1年前ようやく開業にこぎつけた。
ある日のフードトラックの出店場所は、ビール工場が経営するバー。夕方からの営業に向け、大学が休みだったアキラさん(18)と親子2人でおむすびを160個仕込んだ。かつて、恵梨香さんの母・富子さんも厳しい家計を支えるため朝から晩まで働いていたそうで、忙しい中でもおむすびを握ってくれた後ろ姿が忘れられないという。いつも母が作っていた海苔をベタっと貼り付けたまん丸のおむすびが、今の恵梨香さんのおむすびの原点となっている。
アメリカでの恵梨香さんを知り、富子さんは「すごい苦労してるのに、それを乗り切っている。私も勇気をもらいました」と感心。そしておむすびについて、「娘は小さいとき少し体が弱かったのでおむすびを作って食べさせていたら、みるみる検査の結果が良くなって。おむすびのおかげだと思って、私はおむすびに感謝しています」と秘話を明かす。
7歳の娘と海を渡って10年。アメリカで夢を叶え起業した恵梨香さんへ、母からの届け物はおむすび。娘のために、久々に母が愛情を込めて握ったものだ。懐かしいおむすびをほおばり「おいしい…お母さんの塩の味がする」と思わず涙がこみ上げる恵梨香さん。そして「お母さんは絶対言いませんが、本当は私が遠くにいて寂しいんだろうと思います。なので十勝にも支店を作って、日本とサンフランシスコを行き来するような生活ができれば…お母さんのそばにもいてあげたいなと思います」とさらなる夢を掲げるのだった。