今回の配達先は、中米・カリブ海のドミニカ共和国。ここで作業療法士として奮闘する伊東加絵さん(43)へ、神奈川県で暮らす父・博隆さん(71)、母・弘子さん(71)の想いを届ける。
ドミニカ共和国の首都・サントドミンゴの中心部は、急激な経済発展の真っ只中。しかし、少し外れた場所ではいまだ貧しい暮らしから抜け出せない人々が多く存在しているのが現状だ。加絵さんは2017年からドミニカ共和国に在住。2年半前に設立された、障害がある子どもたちが学ぶための施設「ネウロ・アクティーバテ」で作業療法士として働いている。作業療法士とは、心身に障害のある人に対して、日常生活で必要な動作や社会に適応するための訓練、さらには精神面のケアなどを行う医療技術者のこと。加絵さんが勤める施設には、自閉症や脳性麻痺などの障害がある4歳から12歳までの子ども20人ほどが通っているが、ドミニカ共和国では障害児が学ぶ施設がまだまだ足りない上、作業療法士の数も日本に比べて圧倒的に少ないという。
障害児施設で保育士をしていた母の影響で作業療法士となった加絵さん。日本で12年間、いくつものクリニックを渡り歩き作業療法の技術を磨いていく中で、いつしかその技術を誰かに伝えたいという思いが強くなっていった。そこで34歳の時、JICA海外協力隊に応募しドミニカ共和国へ。任期終了後も、自分を必要としてくれるこの国に残ったのだった。
加絵さんが担当する9歳のロドリーゴ君は重度の自閉症。話すことができず、すぐに別のことに興味が移ってしまう彼の状態を見極めながら、加絵さんは色の名前を教えたり、スプーンの使い方を教えたりとさまざまな指導を行う。「絶対その先に結果が出ますから。それがわかるのでやれる」と、根気よくロドリーゴ君と向き合う加絵さん。1年に渡り共に訓練を重ねてきたロドリーゴ君は、以前より上手にスプーンでものがすくえるようになるなど、その努力が実を結び始めているという。また加絵さんの仕事場は、施設の中だけではない。ある日は、15年前にパーキンソン病を患って以来、体が思うように動かなくなった82歳のルイスさんの自宅を訪問。加絵さんはパーキンソン病を治療することはできないが、ルイスさんの体の状態をキープし、少しでも快適な生活が送れるように支援する。リハビリを始めて4年、今ではダンスが踊れるまでになった。さらにこの国で、加絵さんを必要としている人はほかにも。日系移民の夫と結婚し、ドミニカ共和国に渡って60年になる84歳の矢内愛子さんもその1人だ。昨年骨折した矢内さんは、日本語が通じる上に親身になって寄り添ってくれる加絵さんと毎日リハビリを重ねている。
実際に働く姿を初めて見た父・博隆さんは「はっきり言って自分の子どもではありますけど、よくやってるなっていう思いです」と感心する。一方、子どもが大好きで、障害児と向き合う仕事に情熱を注いでいた母・弘子さん。現在も精力的に子育て支援のボランティア活動を行う弘子さんは、加絵さんのリハビリで「ダンスができるようになった」という人を見て、「一番の褒め言葉だと思います。できなかったことができるようになるのは私たちにとっても、すごく大きな喜びになります」と共感する。
この国で生きる多くの人々にとってなくてはならない存在となった娘へ、両親からの届け物は手作りのおもちゃ。小さなペットボトルを2つ合わせ、砂時計のように液体が流れ落ちるおもちゃと、マジックテープがついたぬいぐるみをくっつけたり剥がしたりするおもちゃ。障害がある子どもたちのために使って欲しいと父と母が手作りしたもので、母も実際にボランティアの現場で使っているものだ。加絵さんは「ちょうど欲しかったの!」と、さっそく仕事で使いたいと喜ぶ。そして、「見ている方向がずっと似ているのかな。そういう機会を人生において与えてくれたのも父と母ですし、やりたいことを全部応援してくれていた。感謝してもしきれないです」と両親への想いを語るのだった。