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#72712月24日(日) 10:25~放送
イタリア・フィレンツェ

 今回の配達先は、イタリア・フィレンツェ。ここでジュエリー作家として奮闘する中尾美貴子さん(55)へ、兵庫県で暮らす娘・泉美さん(32)の想いを届ける。
 伝統技法が息づく職人の街としても知られるフィレンツェ。美貴子さんはフィレンツェ彫りのジュエリーに惚れ込み、7年前この街にやって来た。工房があるのは、職人たちが多く集まるエリア。ランプ職人のステファノさんが営むランプ工房の一角を作業場として借りている。美貴子さんはここでジュエリー作りをさせてもらう代わりに、平日は午前10時からランプ作りを手伝っている。夜7時、ランプ作りが終わり、ステファノさんが帰ってからがジュエリー製作の時間になる。
 伝統技法であるフィレンツェ彫りのジュエリーは、透かし彫りの技術を活かしてシルバーやゴールドをまるでレースのように仕上げたり、繊細な彫刻を施して装飾するというもの。デザインから彫金までを美貴子さん1人で行う。「最初のころと比べるとある程度は腕が上がってきていると思うんですけど、やっぱりまだまだです。もっとうまくなりたい」という美貴子さんは毎晩細かな作業に集中して打ち込むが、帰る頃にはもうヘトヘト。帰宅後の夕食はトーストしたパンにオリーブオイルをかけただけ。2切れを立ったまま食べて、1日を終えた。
 23才で結婚し、2人の子どもをもうけた美貴子さん。子育てに夢中で、気づけばあっという間に40代に。そんなある日、偶然目にしたフィレンツェ彫りを施した作品に心を奪われた。既に46才だったが、いても立ってもいられなくなり、フィレンツェにあるジュエリー学校への留学を決意。専業主婦でいることに不満があった訳ではない。ただ、本当にやりたかったことをやり残してきたのかもしれない…。家族と話し合い、夫とも別々の道をゆくことを決めた。娘の泉美さんも背中を押してくれたという。そして1人ですべてを準備し、48才でイタリアへ移住。言葉も分からない街で、人生初めての一人暮らしを始めた。スーパーで買い物すらできなかった美貴子さんの力になってくれたのは、まだ昭和のような人情が残る職人街の人たち。ランプを買うために入った工房でたまたま知り合ったステファノさんもその1人だった。
 ランプ工房が休みの日曜は、丸1日ジュエリー作りに費やす。完成した作品はネットで販売しているが、ほとんど収入にはなっていないのが現状だ。作品が思うように売れない原因は、「プロ意識がまだまだ足りないから」。自分に自信がないから、自分の作品にも自信が持てない。せっかく第2の人生を歩き始めたのに、そんな性格が足を引っ張っているのだという。ただ、我慢を強いた子どもたちのためにも「ある程度はちゃんとジュエリーを作って、お客さんに買ってもらって、みんなに認めてもらえるぐらいまでは絶対に行きたい」と秘めた本心を明かす。
 今回、初めてジュエリーを作る母の姿を見たという泉美さん。自分に自信がない様子は「母らしい」と感じたというものの、日本にいた頃とは「別人みたい。若い子と変わらないやる気と熱意と、将来への展望がいっぱいあって、夢が詰まった人間なんだなと思ってびっくりしました」と美貴子さんの変化に驚く。
 50歳を前に専業主婦から職人の世界に飛び込み、人生が大きく変わった一方で、変えられない自分もいる。そんな母へ、娘からの届け物はテディベア。かつての家族旅行で美貴子さんが買った思い出のぬいぐるみだったが、なぜか「相談クマ」という名前が付けられていた。これは、何でも1人で抱え込んでしまう母を心配する泉美さんが「私の代わりにこのクマがなんでも聞くよ」という想いを込め、今回新たに名付けたものだった。添えられた手紙には「お母さんにはもっと自分と自分の作品に自信をもってほしいと思っています。お母さんのセンスと技術は人と比べなくても凄いものがあると思っているよ。これを機にもっと自分のことを褒めたり、自信を持たせるようなことを出来るだけ沢山してあげてください」と綴られていた。思わず涙がこぼれる美貴子さん。「何か自分の中で臆病になっていた部分が吹っ切って行けそうな気がします」と大きな力をもらったのだった。