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#72612月17日(日) 10:25~放送
オランダ

 今回の配達先は、オランダ・アムステルダム。寿司職人として奮闘する吉田征司さん(33)へ、埼玉県で暮らす父・紀男さん(60)、母・美智子さん(60)の想いを届ける。
 アムステルダム市内には寿司店が200軒ほどあり、日常的に親しまれてはいるものの、日本人が本格的な寿司を出す店はほとんどない。そこにビジネスチャンスを感じた征司さんは2年前、この地に渡ってきた。店舗は持たず、出張専門の寿司職人として、お客さんの自宅へ出向いて寿司を握っている。今回の出張先はアムステルダムの中心地にある高級住宅街。1年前からの常連だというニューヨーク出身のステファニーさんの家に呼ばれた。征司さんの寿司を食べた事がない友人2人を招いてホームパーティーをするという。ダイニングテーブルの片隅を寿司カウンターに、ステファニーさんらの目の前で解説を交えながら寿司を握る征司さん。この日は煮穴子に漬けマグロなど15貫と、汁物、小鉢などのコースで、値段は約1万9千円。オランダにはほとんどない本格的な江戸前寿司とあってリピーターも多いそうだが、出張の依頼は平均で週4日程度。まだまだ生活に余裕ができるほどではないという。
 大学卒業後、メガバンクに就職した征司さん。だが2020年、30歳を前に突然退職。元々文化や歴史に興味があったヨーロッパで暮らすため、日本人である強みを活かした寿司職人の道を選んだ。そして寿司の専門学校に通い、江戸前寿司の技術を一から習得。銀行には何の不満もなかったが、当時持ち上がっていた結婚の話が順調に進まなかったことを機に“レールに敷かれた人生”が崩れ、「当たり前に思っていたことが当たり前ではなかった」と感じるようになったのだという。思い描いていた将来が一変したことで、もっと自由に生きようと2021年にオランダへ渡ったのだった。ところが、そこで想定外のことが。ある日本人から誘われ寿司ビジネスに関わったものの、事業内容に食い違いがあり、最終的にオランダでの生活のために蓄えていた全財産を失ってしまったのだ。
 当時、なぜ寿司職人になったのか分からない上に蓄えも無くなったと聞いた母・美智子さんはショックを受け、夜も眠れなかったという。だが実際に征司さんがオランダで働いている姿を見て、父・紀男さんともども「ほっとしました。頑張ってるんだな」と安心する。ただ、「レールに敷かれた人生」と語っていたことに対しては、美智子さんも「口うるさかったのかな…」と苦笑。「素直な子だったんですが、親に言われたことが基軸で、それが正しいと思って動いていたんじゃないかなと思います」とかつてを振り返る。
 ある日、征司さんにとって特別なお客さんからの依頼が。その女性、アストリッドさんは征司さんが寿司ビジネスに誘われていた時に一緒に働いていた同僚で、オランダで全財産を失い絶望していたときにただ一人相談相手になり、応援してくれた人だった。彼女の家族の前で寿司を握り、楽しんでもらった征司さん。アストリッドさんも「マサシ、本当によかったね。こっちに残って仕事を続けたことをすごく誇らしく思う」と喜ぶ。
 銀行員から180度違う人生を踏み出し、少しずつ前に進む息子へ、両親からの届け物は日本の食品や衣料品。ご飯はちゃんと食べているか、オランダの冬は寒くないか…そんな息子への思いの丈が箱いっぱいに詰め込まれていた。添えられた手紙には、銀行を辞め寿司職人になると聞いた時の心境が綴られ、あまり日頃から多くを語らない息子へ、「遠慮せず相談してください。親はいつでもあなたの味方です」と呼びかけられていた。なかなか現地では手に入らない届け物の数々に感激する征司さん。そして、手紙を読むと「見透かされてる感じが伝わってきますね。全部わかってるんだなって…。両親が安心して毎日眠れるよう、もっと頑張って、もっと認知されて、そういう人間になっていけたらいいなと思います」と語り、更なる奮闘を誓うのだった。