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#71910月29日(日) 10:25~放送
ドイツ

 今回の配達先は、ドイツのデュッセルドルフ。テーラーとして奮闘する城田真至(まさよし)さん(35)へ、兵庫県で暮らす父・修さん(66)、母・久美子さん(66)の想いを届ける。
 テーラーとしての最高峰、超難関のマイスター資格を持つ真至さんが仕立てるのは、お客さん一人一人の体型に合わせたフルオーダーの紳士服。採寸する箇所は、ジャケットだけでも20か所以上も。メジャーの数字だけでは分からないところもあるため、自分の目や手の感触でも体の特徴を確認していく。生地はスーツ上下で17枚のパーツに切り分け、縫製の前には「くせとり」という、水と熱で平らなウール生地を立体化させ、人間の体に合ったラインを形作る作業を行う。さらに着心地の良さを追い求め、スーツ全体の95%以上をミシンよりはるかに手間がかかる手縫いで仕上げる。こうして、伝統的なクラシックスーツ上下を完成させるのにかけた時間は、実に100時間。また、紳士服以外の服にも対応できる技術を身に付けようと、平日の午前中は隣町にある劇場で舞台衣装を縫製するアルバイトをしている。一般的なスーツとは違って、踊ることを前提にしたバレエの衣装や演劇で使う男性用のドレスには普段使う仕立ての技術が通用しないといい、「毎日、何か発見があります」と語る。
 真至さんの工房の棚には、息子の身を案じる母が毎年送ってくれるたくさんのお守りがある。実は真至さんは20歳のときにバイクの事故で足を大けがし、一時は命の危険も。骨や神経をつなぎ合わせる大手術の末、奇跡的に足の切断は免れたものの、10回以上の手術と長期の入院生活を余儀なくされた。この頃、人生に希望を見出せなくなっていた真至さん。そんな息子のため、父と母は自宅がある兵庫県から入院先の大分県まで駆けつけ、泊まり込みで看病。さらに両親は夜なべをして真至さんのパンツを直し、大きな装具を付けた足でも脱ぎ着できる形にしてくれたという。この経験から、真至さんは障害がある人のために着心地のいい服を作りたいと、新たな道を目指すように。22歳から松葉杖をつきながら服飾学校に通い、リハビリと並行して貪欲に服作りを学んだ。2015年、27歳でドイツへ。こうして11年にも及ぶ修業の末、2021年、33歳のときに超難関の試験を突破。テーラーの最高峰であるドイツの紳士服マイスターの資格を取得したのだった。
 現在、実験的に試作しているのが、車椅子でも腕を動かしやすく型崩れしにくいスーツ。バレエの衣装に使われる袖の形を取り入れたという。さらに、日本の着物を再利用してスーツに仕立てる試みも始め、初めて女性用ドレスにもチャレンジ。彼女の優佳さんをモデルに、アルバイト先の劇場で知り合った婦人服マイスターのアナさんから指導を受けている。
 ドイツで充実した日々を手に入れた真至さん。そんな中でも、日本の両親のことは常に気にかけていて、「事故をしたときに世話になったのが自分の中で大きい。どこかのタイミングで親孝行ができたらと思っているし、例えば介護が必要になったときには2人のそばにいられたら」と考えているという。
 その言葉を聞いた母・久美子さんは「すごいうれしいけど、息子には『親のことは心配しなくていいから、自分の好きなことをやりよ』と言ってます」と明かす。一方、真至さんがテーラーになった理由を初めて知った父・修さん。当時は自身でミシンがけもしたそうで、「まさかあのときのパンツがきっかけとは…」と驚く。
 障害者のための服作りを志して13年。夢の実現に向かって着実に歩みを進める息子への届け物は、目標達成と体の無事を願う父と母が2人で手作りしたお守り。縫い目を見た真至さんは、「愛情のこもった手縫い…めちゃめちゃうれしいです。肌身離さず持って大切にします」と感激する。そして、「改めて『ありがとうございます』という気持ちです。僕がこうやって頑張ってるのが、親にとっては親孝行なのかな…」と両親の想いをしっかりと受け止め、感謝を伝えるのだった。