今回の配達先は、プロボクシングの本場として知られるアメリカ・ニューヨーク。プロボクサーとしての再起を賭け東京から移住した吉田実代さん(35)へ、鹿児島県で暮らす母・美千代さん(62)の想いを届ける。アメリカ行きを聞いたときは「やっぱりびっくりしました」と美千代さん。「アメリカとなると、何かがあったときにすぐに行けないというのがちょっと不安です」と、子どもを連れ、知り合いもいない地に渡った実代さんを心配する。
「闘うシングルマザー」と呼ばれ、日本のボクシング界ではその名を知られる存在だった実代さん。番組では2021年に彼女を取材。東京で娘の実衣菜ちゃんとともに二人三脚で戦っていた実代さんは同年、2度目のチャンピオンに輝いた。しかしその後、防衛戦で敗北し最強の称号を失ってしまう。日本ではまだマイナーな女子プロボクシングは試合を組むのが難しく、年に1回の開催がやっと。そこで35歳となり、残された時間がわずかとなった実代さんは再びチャンピオンを目指して本場での挑戦を決意。そして実衣菜ちゃんと真剣に話し合い、2人で移住を決断したのだった。
2022年12月、実代さんは世界中から集まった強豪たちがしのぎを削る街・ニューヨークに移住し、早速練習を開始。モハメド・アリ、マイク・タイソンをはじめ数多の世界チャンピオンを生み出してきた名門「グリーソンズ・ジム」で、トレーナーから勝つためのボクシングを一から体に叩き込まれていた。一方、自宅としてブルックリンの治安のいいエリアでシェアハウスを借り、8歳になる実衣菜ちゃんも現地の学校に通い始めた。
鹿児島で生まれ育った実代さん。シングルマザーとして働き詰めだった母への反発から、中学卒業後に実家を飛び出し、自分を見失っていた時に出会ったのがボクシングだった。そして結婚と出産、離婚を経て、いつしか「闘うシングルマザー」と呼ばれるようになった。裕福ではないものの必死で育ててくれた母とはよく衝突もしたが、気づけば同じシングルマザーに。かつて自身が母の背中を見て育ったように、今は実衣菜ちゃんに戦う背中を見せることが一番の教科書になるのではないかと考えているという。
移住して3カ月後、復帰戦となる試合が発表された。対戦相手は27歳の注目株、インデア・スミス選手。身長152センチと小柄ながらフィジカルが強く、打たれてもどんどん前に出て来るパワーファイターで、実代さんと同じようなタイプだ。実代さんが勝利すればタイトルマッチに近づくが、逆に負けてしまうとタイトルマッチは数年後へ遠ざかってしまうという大事な一戦となる。いよいよ迎えた試合当日。相手選手を応援するアメリカ人が会場を埋める中、実代さんの味方はセコンドを含めた少数の応援と、会場の片隅で見守る実衣菜ちゃんだけ。圧倒的にアウェイの空気が漂う中、試合開始のゴングが鳴った。実代さんは1ラウンドでまぶたを切ってしまうも、それでも前へ攻め続け、若くてスタミナで勝るスミス選手に対して一歩も引くことはない。実衣菜ちゃんも祈りながら「ママ頑張れ!」と声の限り応援する。パワーファイター同士の激しい打ち合いが続き、遂に戦いの舞台は最終ラウンドへ。判定となった勝負の結果は…。
リングの上で輝く自分の背中を見せることが、今は娘のためになる。ニューヨークで戦い続ける実代さんへ、日本の母からの届け物は手作りのスイートポテト。幼い実代さんとケンカした時、母が仲直りの証に作っていた2人をつなぐ味だった。添えられた手紙には「私はあなたの母になれた事を誇りに思います。私の所へ生まれて来てくれて本当にありがとう」と母の想いが綴られ、実代さんは号泣。「お母さんは人より苦労してると思うし、私も強い母に寄りかかり過ぎていたと思う。今度は私がお母さんの精神的な支えになってあげたい…」。そう感謝を伝えた実代さんは、実衣菜ちゃんと思い出のスイートポテトを分け合うのだった。