今回の配達先は、ジャマイカ。ここで障害がある人々に居場所をつくるべく支援活動をしている永村夏美さん(39)へ、大阪府で暮らす母・實子さん(69)の想いを届ける。自身も長年、障害者支援の仕事をしている實子さん。同じ道を歩み始めた娘を、「障害者の居場所をつくると言っても結構大変やと思うんです。どんな風にやっているのかが気になります」と心配する。
カリブ海に浮かぶ自然豊かな国・ジャマイカ。レゲエミュージックが誕生した国として知られているが、貧富の差が激しい格差社会でもある。夏美さんは2020年、日本でNPO法人「リンコップ ジャジャ」を設立。2023年1月から現地に渡り、本格的に活動を始めた。現在は今後の支援活動のため、ジャマイカの障害者を取り巻く環境を調査している最中だ。現地で知り合った42歳のアントニーさんは、生まれつき手足に障害がある男性。人通りの多い場所で道行く人からお金をもらいつつギリギリの生活を続けている。ジャマイカでは障害がある人にはほとんど仕事がなく、このようにストリートでお金を恵んでもらうのが生きる術。そんな現状を知った夏美さんは、まずは障害者の居場所づくりをしようと考えた。
夏美さんとジャマイカの出会いは、15歳のとき。レゲエミュージックに魅了され、どうしても本場に行きたいと高校卒業後に現地の語学学校に留学。すっかりこの国のとりこになった。一方、母の實子さんはシングルマザーで、一人娘である夏美さんの子育てと、障害者を支援する団体での仕事を懸命に両立してきた。思春期の頃は反発したこともあったが、自身も足に先天性の障害を抱えながらも人生をかけて仕事を続ける母の背中を見ていた夏美さんは、いつしか同じ道を歩み始めていたのだった。
これまでは日本で働いて資金を貯めては2年に1度ジャマイカへ渡る生活を続けていたが、2023年からJICAの海外協力隊員として公立小学校で授業をする任務に就くことで、ようやく現地に腰を据えることができた。ジャマイカは環境に対する意識が低く、町のあちこちに大量のゴミが放置されている。そこで小学校では、生徒たちにゴミ問題の深刻さを伝える授業を行っている。またある日やってきたのは、知的障害を持つ生徒が通う特別支援学校。ジャマイカは障害者が通える学校はあるものの、卒業後は働ける場所が少ないのが現状。そこで夏美さんは学校に掛け合い、手に職をつけるための授業を行う試みを始めたのだ。教えるのは、50年以上前に大阪で誕生した「さをり織り」。織り方にルールがなく、障害がある人でも簡単にはた織りができるのが特徴。夏美さんは日本で織り方を習い、織り機を1台購入してジャマイカに持ち込んだ。ゆくゆくは生徒たちが“さをり織り”で商品を作って販売し、自立することを願っている。その翌日は、夏美さんが住む町の教会に町内会の女性達を招いて体験会を開催。障害者に“さをり織り”の楽しさを伝える先生を育てるのが狙いだという。そこへやってきたのが、手足に障害を持つアントニーさん。生まれて初めてはた織りに挑戦した彼はすぐに使い方を覚え、見よう見まねで自分なりのデザインを加えていった。「作品を作って売ることができたら、ストリートでお金をもらう生活がやめられる」と目を輝かせるアントニーさんを、夏美さんも笑顔で見守る。
大好きなジャマイカで障害がある人々の居場所づくりを始めた娘へ、母からの届け物は、手作りの巾着袋に入った夏美さんの保育園時代の連絡帳。当時から母は働き詰めだったが、実は1日も欠かすことなく先生とやりとりを重ねていた。そんな連絡帳に綴られた3歳の頃の自分の姿と仕事にも子育てにも一生懸命だった母の想いに、涙がこぼれる夏美さん。そして「お母さんが元気やから私もこうやってやっていられる。きっとお母さんは病気になっても『自分のことはほっといて』って言うと思うけど…元気でいてほしい」と、遠く離れた日本の母へメッセージを伝えるのだった。