今回の配達先は、アメリカ・ラスベガス。ここでパフォーマーの世界大会に挑むマジシャンのTanBA(タンバ)さん(50)へ、静岡県で暮らす父・達義さん(78)と母・意好(むねこ)さん(78)の想いを届ける。家業は3代続く石材店。達義さんは「マジシャンになるって言ったときは、全然違う道だったのでショックを受けた」と当時を振り返る。しかもTanBAさんは小さい頃からかなりの人見知りだったそうで、意好さんも「ハンマーで頭を殴られたような感じがしました」と、息子がマジシャンという仕事を選んだ衝撃を明かす。
世界トップクラスのショーが連日行われるエンターテインメントの本場・ラスベガス。現在は東京在住で、都内のマジックシアターを中心に活動しているTanBAさんは、サーカスパフォーマーの世界大会「VIVA Fest(ビバフェスト)」に出場するためここにやってきた。武器は、鋭いカミソリや長い風船などを飲み込んでみせる口を使ったパフォーマンス。そして今の一番の目標は、ラスベガスで長期の契約を獲得し、日本で大学の教員をしている妻・いづみさんと2人の子どもと共に移住することだという。2017年、彼の運命を大きく変えた出来事が、スーザン・ボイルをはじめ数多くのスターを輩出する「Britain’s Got Talent(ブリテンズ・ゴット・タレント)」への出演。日本でもたびたび話題になる世界的な公開オーディション番組で、なんと審査員全員から合格を勝ち取ったのだ。放送後の反響は凄まじく、世界中から仕事の依頼が入るように。その勢いに乗り、かねてからの夢だったラスベガスへの本格的な進出を狙ったTanBAさんは、2020年のビバフェストにエントリー。しかし新型コロナの影響で中止となったため、今回は3年前に掴み損ねた夢を今度こそ、と意気込み乗り込んだのだった。
5日間にわたり開催されるビバフェストは、世界中から集まった400組以上のパフォーマーがカテゴリー別で競い合う。TanBAさんが出場するのは大会のメインイベントで、招待された10組のトップパフォーマーによる世界最高峰のコンテスト。審査員はシルク・ドゥ・ソレイユをはじめ名だたるショーを手がけるプロデューサー達で、結果を出せばその場で即契約もあり得るという、TanBAさんにとっては願ってもない舞台なのだ。
石材店を営む職人一家で、三人兄弟の二男として育ったTanBAさんがマジックに目覚めたきっかけは、手品で楽しませてくれた祖父。高校生の頃には当時大ブレイクしたMr.マリックにハマり、プロを目指すように。18歳のとき、両親の猛反対を押し切って上京。マジシャンとして試行錯誤する中、2009年からの2年間「マッスルミュージカル」のラスベガス公演に参加したことで、海外のショービジネスに目を向けるようになった。その後、夢はアメリカで成功することへと進化するが、当時すでに36歳。アメリカに飛んではオーディションに挑むもなかなか芽が出ず、不運で大きなチャンスを逃し悔しい思いをしたことも。それでもTanBAさんにとってラスベガスは「憧れの場所。チャンスはいくらでも転がっている」と語る。
ビバフェスト本番前日。TanBAさんは急きょオファーを受けて、ラスベガスで11年ものロングランを誇る人気のショー「V」に出演することに。アクロバットやマジックなど様々なパフォーマンスが次々と繰り広げられる中、TanBAさんのショーが開演。目の肥えたラスベガスの観客を大いに盛り上げた。「最高ですね。この盛り上がった気持ちのまま、ドーンと行こうかな」と気合が入るTanBAさん。いよいよ翌日、人生の大一番を迎える。