今回の配達先は、アメリカ・ニューヨーク。家具アーティストとして奮闘する飯田修也さん(39)へ、岡山県で暮らす母・則子さん(73)の想いを届ける。
修也さんの工房があるのはマンハッタンの対岸、アーティストたちが集う街・ブルックリン。体育館ほどもある広い作業場を、若い作家たちがお金を出し合って借りている。ここから独創的なデザインの家具を生み出している修也さんの“武器”が、「CNC旋盤」というイメージを具現化してくれる機械。熟練した職人技がなくてもコンピューターで自由に木材を切り出すことが可能で、イメージ通りの家具が作れるのだそう。そんな修也さんの家具は歴史ある展示会で4年連続賞を獲得するなど、家具業界ではその名を知られる存在に。材料もこだわり抜くため値段は決して安くはないが、ショップに出すとすぐに売れてしまうという。
子どもの頃から絵を描くのが好きだった修也さんは美術専攻の高校に進学。画家を目指すも、希望していた芸術大学に入れず別の仕事に就いた。しかし、芸術の道を諦め切れず23歳でデザイン学校に入学。そこで何気なく選んだ家具の授業が人生を変えることになった。卒業制作展用にアクリルと木を組み合わせた家具を作り、学生のコンペに出品すると賞を受賞。その作品が「アメリカでも通用する異素材を使ったデザイン」との評価を受けると、翌日にはアメリカ行きのチケットを準備し、半年後に渡米したのだった。かつては海外に出ることすら想像もしていなかったというが、11年前に自身の家具ブランド「ハチコレクションズ」を立ち上げ、今では3人のスタッフを抱えている。
現在、修也さんは新たな試みを行っている。その1つが、「Shuya Cafe de Ramen(シュウヤ・カフェ・デ・ラーメン)」という飲食店で、店の家具は全て修也さんが無償で提供したもの。食事をしながら実際に家具の使用感を試すことができて、時間が経った家具の雰囲気も見てもらえる、いわばハチコレクションズの体験型ショールームだ。さらに、家具のショールームにカフェとバーを併設したスペースを作る計画も進行中で、巨額の資金を集めるため投資家へのプレゼンテーションを間近に控えている。修也さんの最終的な夢はマンハッタンでビルを一棟丸ごと買い、ハチコレクションズのホテルを経営すること。数十年先にその夢を実現させるための足掛かりが今回のプロジェクトなのだという。
日々夢を追いかけながらも、日本に一人でいる母のことは毎日頭によぎるという修也さん。一方、息子がニューヨークに行って14年。すぐに帰ってくると思っていた母の則子さんは、「まだ帰ってきてほしいんですよ。一人だもの…」と本音を漏らす。だが、息子にはその気持ちを伝えたことはなく、「やっぱり心配させるじゃないですか」と複雑な心境を明かす。
壮大な夢に向かって脇目もふらずに突き進む息子へ、母からの届け物は父の形見であるデジタルカメラ。メモリーカードには、父が定年した後に家族で行ったイタリア旅行の写真が収められていた。単身赴任生活が長かったが、何も言わずずっと家族を見守ってくれていた父を人間的に尊敬しているという修也さん。撮ったことすら忘れていたたくさんの写真を懐かしそうに眺めていたが、父と2人で写った1枚を発見すると涙がこみ上げ、号泣する。さらに母からの手紙には、これまで直接伝えられたことがなかった素直な気持ちが綴られていた。そんな母の想いや父との写真に感激する修也さんは、「こんな泣き虫なところ見せられない」と言いながらも涙があふれ出るのだった。