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#68012月25日(日) 10:25~放送
アメリカ・シアトル

 今回の配達先は、アメリカ。シアトルで飛行教官を務めるパイロットの前田伸二さん(43)へ、北海道で暮らす兄・茂雄さん(48)の想いを届ける。
 伸二さんが勤めているのはシアトル郊外にある飛行訓練場。教官として生徒に操縦技術を教えている。アメリカでは自家用飛行機は身近な存在で、伸二さんも「ルーシー」と名付けた小型飛行機を所有。しかも昨年はその愛機で単独飛行による世界一周に挑戦し、18か国を43日間かけて飛んだ。史上139人目という偉業だったが、伸二さんにとっては他の人とは違う意味でも偉業だった。実は彼は、片方の目が見えない“隻眼(せきがん)のパイロット”なのだ。
 北海道の開拓民の家系に生まれ、好奇心旺盛だった伸二さんは、5歳で初めて飛行機に乗り大空に憧れを持つように。中学を卒業すると迷わず航空高校・航空大学に進学した。しかし大学に入学してすぐの頃、交通事故に巻き込まれ生死の境をさまよう。何とか一命は取りとめたものの、右目の視力を奪われ、同時にパイロットになるという夢も断たれた。18歳で絶望のどん底に落とされた伸二さん。そのとき、農業を勉強するためアメリカに留学していた兄から一通の手紙が届く。「お前の片翼は折れかけて操縦不能かもしれないが、その片翼で飛び続けるか不時着するか、決定するのはお前だから」。そんな兄のエールを胸に、航空エンジニアを目指すことを決意した伸二さんはアメリカへ渡り、航空大学に留学。するとそこで、運命を変える出来事が。大学の教授に呼ばれ空港に行った伸二さんは、突如飛行機に乗るように言われ、さらには自ら操縦桿を握ることに。「俺、飛んでるんだけど!」と感激する伸二さんに教授は言った。「人生の中で2つ不幸なことがある。1つは、正しい情報を持っていないこと。もう1つは、自分のやりたいことがわかっているにもかかわらず挑戦しないこと。伸二はなんでパイロットにならないんだ」。こうしてアメリカでは隻眼でもパイロットになれることを知り、改めて夢に向け進み始めた伸二さんは、2005年にプロペラ機の免許を取得。そして2021年にはハンディを背負った若者の希望になるため、世界一周に挑戦した。無謀ともいえるチャレンジには、「売名行為だ」などと批判の声も届いたという。心が折れそうになったものの、妻の「日本生まれの片目のパイロットはあなただけ。あなたがやらないと誰がやるの」という言葉で乗り越え、絶対に成功させて必ず帰ってくると誓い出発したのだった。
 そんな弟について、兄の茂雄さんは事故後からを振り返り、「正直、家族の中でも生きていたら御の字だったのが、まさかそこから復帰して、大学院を出て、パイロットになって、仕事に就いて、家族を持って…。自分を信じる力が人より何倍もあったんじゃないかな」と感慨深げに語る。
 ある日は、久々に教え子と再会することに。18歳の彼もまた片目の視力を失っていたが、現在パイロットの訓練中。「伸二は僕に生きる希望をくれた」と感謝を伝えられると、伸二さんは涙が止まらなくなる。アメリカで救われ、その恩返しとしてまたアメリカの次の世代に希望を伝える…夢を諦めず自らの道を切り開き続ける弟へ、兄から届け物は伸二さんが高校時代、和太鼓部のキャプテンとして必死だった時にしたためた書。添えられていた手紙には、「『情熱』 我々兄弟が両親から感じて来たように、未来に向かう子供たちにも伝えてほしい。俺は畑を、伸二は空を、これからも開拓していこう」と綴られていた。自慢の弟へ、兄からの熱いメッセージ。伸二さんは「“情熱を持って人の心を打つ”というのが今の私の使命。だから、もっと多くの人達にお前の想いを伝えろということだと思います」とまっすぐに受け取ったのだった。