今回の配達先は、オーストラリアのシドニー。フラワーアーティストとして奮闘する今野有加さん(43)へ、北海道で暮らす父・修司さん(65)、母・けいこさん(69)の想いを届ける。
「仕事は“花人間”をしています」という有加さん。「花人間(HANANINGEN)」とは、モデルの頭に花を生けるという札幌生まれのフラワーアートのこと。3年前、有加さんは花の装飾から完成した作品の写真撮影までを行う会社「HANANINGEN Sydney」を1人で立ち上げ、シドニー郊外の自宅にスタジオを構えた。フラワーアレンジメントは全くの未経験だったが、5年前「花人間をやりたい」と思い立ち、38歳のときにフローリストの学校に入学。そこで一気に才能を開花させ、成績は学内トップ。大会でも金賞を獲得するなど実績が認められ、花人間の札幌本社からライセンスを与えられたのだった。
花人間の予約が入った日は、花を仕入れに早朝からシドニー最大のフラワーマーケットへ向かう。午前7時に帰宅すると、一旦2人の娘のお弁当作り。その間は夫の秀樹さんが1歳の息子の子守りを担当する。娘たちを学校に送り出したら、休む間もなくスタジオの準備。この日のお客さんはシドニーの着物クラブに所属する女性で、新たな日本文化を体験してみたいと申し込んだそう。作品はいつも即興で、やり直しのきかない一発勝負。有加さんは直感で頭に様々な花を生け、お客さんと花の魅力を最大限に引き出していく。装飾が完成し、頭の上に豪華な花をまとった自身の姿を見たお客さんは、「良い意味でびっくりした。圧倒的で美しくて…」と感激する。
3歳の時に両親が離婚し、母子家庭で育った有加さん。先天性の肺の病があり体が弱くこもりがちだったが、10歳で大手術を乗り越えてからは一転、活発な性格になったそう。そんな性格が似ていたのか、母とはケンカばかり。一方、父とは疎遠だったが、思春期の頃、父に会ってみたくなった有加さんはある行動に出た。電話帳で同姓同名の人を探して直接電話をかけていったのだ。すると偶然1人目の電話で父にたどり着き、13年ぶりに再会を果たしたという。以来、思い立ったら即行動する有加さんは、19歳からアメリカの大学に留学し、オーストラリアで就職。さらに夫・秀樹さんと共にカナダに移住する。そんな頃、死産を経験。憧れだった家族を持つという願いはその時は叶わなかったが、辛い中でも前を向こうと再びオーストラリアへ移住し、その後2人の娘を授かった。だが5年前、肺気胸の大手術を行うことになり、生死の淵をさまよう。その時に生きる力をくれたのが、花人間への挑戦だったのだ。
娘について、母のけいこさんは「生き方が大胆なので、小さい頃はそれが危なっかしく見えて怒ったりしたんじゃないかな」と振り返る。また、有加さんの大胆な行動から再会することになった父の修司さんは、「そういう日が来るだろうっていうのは思っていたので、嬉しかったですよ」と心境を明かし、現在の様子についても「いつの間にこんなに立派になったのかなっていう感じですね」と目を細める。
「いつもお客様の想像以上のものが作れるように。そうすれば、幸せの輪が増えていく。同じパッションでやってくださる方がいれば、違う街でもやりたいですし、花人間が日本みたいに増えていってくれたら」と夢を語る有加さん。苦難を乗り越えて自分の家族を持ち、今また花で人を幸せにしたいと願う娘へ、母からの届け物は祖母の形見の鉄瓶。「家族はつながっているんだよ」との想いが込められていた。添えられた手紙は父からのもので、初めて見る父の文字と温かい言葉に思わず涙がこぼれる有加さん。そして父と母、それぞれに感謝を伝えつつ、「いつも思い切った行動ばかりしているんですけど、これからも思い切って生きようと思います」と笑顔で宣言するのだった。