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#67311月6日(日) 10:25~放送
アメリカ・ポートランド

 今回の配達先は、アメリカ・ポートランド。レザーアーティストとして奮闘する米澤威さん(41)へ、千葉県で暮らす父・寛さん(69)、母・利江さん(66)の想いを届ける。
 威さんの代表作が、ネイティブアメリカンの民族衣装「ヘッドドレス」。世界中のレザー職人が競う全米最大級のコンテストでグランプリを受賞した作品で、豪華な羽飾りも、模様を描く小さなビーズ1つ1つもすべて革で作られている大作だ。同じくグランプリを受賞した作品が「盆栽」で、7000本近い松の葉や苔、幹なども全てのパーツが革で再現されている。またアーティストとして活動する一方、「ヨネザワレザー」というブランドで小物やカバンを製造。縫製はミシンではなく、手縫いにこだわる。革に施す彫刻は下書きを一切せず、全てフリーハンド。革に模様や質感を出すための道具を駆使して、革にくっきりとした印影を立体的に浮かび上がらせていく。町のギャラリーに並ぶ威さんが作ったビジネスバッグの価格はどれも100万円以上と高額だが、買い手が途切れる事はないという。
 板金塗装業を営む家に生まれた威さんは、音楽の専門学校を卒業した後、ミュージシャンの道へ。レザークラフトを始めたのは20歳のときで、ウエスタンファッションにハマり、彫刻が入った財布を作りたくて教室に通ったのがきっかけだった。30歳でミュージシャンとしての限界を感じ引退するが、その頃にある革職人と運命的に出会う。威さんは弟子入りを志願し、師匠の下で約2年近く修業生活を送った。こうして革作りの全てを学んだ威さんは、レザーカルチャーの本場・アメリカで勝負しようと決意したものの、当時仕事は一切なく、英語も話せなかった。そんな彼を支えたのが、アメリカと日本の遠距離恋愛を経て結婚した妻のミッツィーさん。「彼の情熱を私がサポートしてあげたい」と、キャリアウーマンであるミッツィーさんが外で働き、子どもの世話や夕食作りは威さんが担当している。
 家族が寝静まる深夜が、アートワークに注ぐ時間。現在取り掛かっている一大プロジェクトが来年出展予定の「鷹」で、10年前から構想する作品は一切の妥協をせず、鷹が飛ぶ構造まで研究して本物を追求し続けている。これまでも自分の道を貫き通してきた威さん。「若い時は気持ちだけでやっていても不安になることもある。でもその中で、親という一番近い存在が信じてくれていた。何でそこまで信じられたんだろうとは思いますが…」と、アメリカで挑戦するときも何も言わず背中を押してくれた両親に感謝する。なぜ息子が革職人になったのかは知らなかったという父・寛さんは、当時を振り返って、「正直に何でも言う子で、中学の時には『工場を継がない』と言っていた。なので、何か後押しをしてやらなければと思って…」と心境を明かす。そして威さんの作品を見て、同じ職人として「すごいと思いますよ」と感心。母・利江さんも「命を吹き込んでるって感じですよね」と目を細める。   
 ある日やってきたのは、撮影スタジオ。ここで制作途中の鷹の写真撮影を行うという。「今までで一番大きなプロジェクトなので途中経過を残したいと思って。最終的には写真集を作りたい」。熱き魂を革に刻み込み、革のポテンシャルを後世に伝えたい…未知なる大作を世に生み出そうとしている息子へ、両親からの届け物は、母が刺繍を施したジーンズ。威さんがミュージシャンをしていた頃にステージではいていたもので、今回、新たにヨネザワレザーのロゴの刺繍を加えた。思い出のジーンズをしみじみと眺め、「ちゃんと額を作って飾りたい」と喜ぶ威さん。そして、添えられた母からの応援のメッセージに「ありがたい…それだけです。何を思い出しても感謝しかないですね」と思わず涙がこぼれるのだった。