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#67010月16日(日) 10:25~放送
カナダ・トロント

 今回の配達先は、カナダ最大の都市・トロント。おむすび店の経営者として奮闘する荒井里恵さん(49)へ、栃木県で暮らす母・英子さん(78)、姉・寿子さん(54)の想いを届ける。娘とはもう9年間会えていない英子さんだが、最近は寿子さんにもらったiPadで里恵さんのインスタグラムをチェックしているそう。そこで「いいね」や、「美味しそうだね」などとコメントしていると明かすが、まだ娘が働く姿を生では見たことがないという。
 人口の半数近くが外国からの移民という国際色豊かな街・トロント。里恵さんは市街地から車で10分ほどの、地元の人が多く住む地域の一角で、「おむすびバー スズメ」を営んでいる。店舗は多国籍なストリートフードが集まるエリアの中にあり、貨物列車のコンテナを改造した3畳ほどの小さなスペースで、注文がくる度におむすびを握る。忙しい時は120~130個も売れるそうで、このエリアでトップクラスの人気を誇っている。メニューは定番の梅しそやツナ、サーモンわさびなど8種類。さらに「マンスリーおむすび」として毎月新しい味を開発している。一番人気は椎茸の佃煮にニンニク風味を効かせたオリジナルの「ガーリック・椎茸・マッシュルーム」で、メニュー名に単語を3つ使うことと、おいしい米を炊くことにはこだわりを持っている。
 27歳の時、明確な目標もないまま、当時交際していた彼氏とカナダに渡った里恵さん。トロントと比べると日本での暮らしは窮屈に思えたといい、カナダに住み続けることを決意する。生活のため、日本食レストランでウェイトレスのアルバイトを始めるも、そのうち厨房に立つように。やがて料理の楽しさに魅了された。そして3年前、勤務先の閉店を機に初めて自分の店を持つことを考え、47歳にしておむすび店をオープン。順調にお客さんが増える中、自分に全ての責任がある店の経営にこれまでにないやりがいを感じている。ただ、トロントの冬はマイナス20度にもなるため、寒い季節は売り上げが激減してしまう。そこで冬場はおでんの販売に力を入れるが、小さい鍋しかないのが悩みだという。
 店が2周年を迎えるにあたって、記念メニューを限定販売することにした里恵さんは、具材に父との思い出がある山芋とオクラを選んだ。大好きだった父は9年前に他界し、それ以来一度も日本の家族とは会っていない。目の前のことに夢中で、ここまで帰国を考える余裕もなかったのだ。そんな中、開店2周年となった記念の日は、1週間でも一番忙しい土曜日。さらにお祝いに駆けつけてくれた人で店は大盛況となる。味もネーミングも熟考し、限定20食で用意した「ヤム・ネバネバ・オクラ」は19食を売り上げた。「1食残ったのは『もうちょっと頑張れ』って、何かが私に言っているんだと思う」と里恵さんは充実した表情で、熱く多忙な1日を終えた。
 カナダに渡り22年。今、自分の道を見つけ進み続ける里恵さんへ、届け物は「おでん鍋」。里恵さんのSNSを見て、カナダではおでん鍋が手に入らず困っているのを知った母と姉が探してくれたものだ。添えられた母の手紙には、今後へのエールとともに「気持ちよく送り出してあげなければ、と気持ちの折り合いをつけるのにちょっと時間がかかりました」と長年抱えていた本音も綴られていた。初めて知る想いに、里恵さんは「母はインスタグラムで一番コメントをしてくれている人。それで、見てくれているなとわかっていますし、『これだけやってます』というのをずっと見せたいっていう想いが、私を頑張らせてくれる。だからもっと頑張ろうと思います」と、今の率直な気持ちを伝えるのだった。