今回の配達先は、メキシコのケレタロ。宅配の弁当屋を営む深田美咲さん(32)へ、三重県で暮らす祖父・忠義さん(86)、祖母・紀美子さん(82)の想いを届ける。両親の離婚後、祖父母に育てられた美咲さん。以前は「料理も一緒によくしました」という紀美子さんは、「待望のひ孫が生まれたんですが、そんな子どもがいるのにどうやってお弁当をしているのかなと思って…」と、孫娘の子育てや仕事の様子を気に掛けている。
ケレタロの郊外にある仕事場兼自宅で、6年前に結婚した夫のエリオさんと1歳の娘・芽生ちゃんと暮らしている美咲さん。かつてはエリオさんの故郷であるベネズエラで旅行会社を経営していたが、内戦により国の経済が破綻。そこで3年前に新天地を求めてメキシコへ移住し、半年前に夫婦で日本食の弁当のデリバリー会社「EMI」を立ち上げた。1日の作業は朝6時からスタート。週に1度、地元の市場や日本食材を扱う専門店を回って材料を仕入れ、すぐさま1週間分の仕込みをしておくが、毎日の仕込みも深夜12時まで続き、「子どもも生まれたので家でできる仕事を…と思ったんですけど、こっちの方が全然労働時間が長いです」と苦笑する。弁当のラインナップは数十種類を揃え、ある日は週替わりの幕の内や、チキン南蛮、カツとじ、うな丼など7種類を用意。メインのおかずはもちろん、タコの酢の物など副菜も充実させるのが美咲さんのこだわりだ。多い時は1日50個ほどの注文が入り、できた弁当からエリオさんが配達に向かう。世界遺産があるケレタロはメキシコ屈指の観光地である一方、近年は各国の大手企業の工場が急増している工業都市で、お客さんの多くは日本企業で働く単身赴任の日本人。美咲さんは、単身赴任者の食生活が大きく乱れていることを知り、「そういう人たちを見て、お弁当とかやれば良いんじゃないかと思った」と着想を得たのだという。
人生の転機は、小学1年の時。母と兄と一緒に1年間アメリカに留学し、日本とは全く違う生活を体験して様々な世界があることを知った。両親が離婚して母と暮らすようになった頃には、海外暮らしが目標に。大学に入ると海外旅行三昧で、アルバイトで資金を貯めながら世界50か国を渡り歩いた。しかし、希望に満ちていた美咲さんは予期せぬ出来事に見舞われる。旅行中に母が再婚。家は無くなり、荷物も全て三重にある父の実家に送られていたのだ。寝込むほど大きなショックを受けた美咲さんだが、寄り添ってくれた祖父母が心の支えになったという。大学卒業後は大手商社に就職するも、2年間海外出張がなかったため退社。その後、海外を転々としていた中でエリオさんと巡り合った。そんな美咲さんの原動力は「自分の力で成功したい。自分でビジネスをして稼げるようになりたい」との想いだといい、だからこそベネズエラで旅行業ができなくなっても、次の挑戦に向かえたのだと明かす。そして、仕事での成功や家族の幸せを成し遂げるまでは、決して手は抜かないと心に決めている。
試練をことごとく乗り越え、強くたくましく生きる美咲さんへ、日本の祖母からの届け物は梅のジャム。毎年、庭でとれた梅で祖母が手作りしていた思い出の味だ。添えられた手紙には、「生きていくのに一番大切な食事の仕事を選んでくれたことはとてもうれしいです」というメッセージが。思わず涙ぐんだ美咲さんは、「おばあちゃんも漬物を自分で販売したり、野菜を育てたりして、『何があっても食事が一番大事で、安全なものを届けたいから自分で作る』と言っていた。おばあちゃんの影響も受けて今の仕事を選んだんだと思っています」とその想いを受け止めるのだった。