今回の配達先は、カンボジアのシェムリアップ。養豚業を営む清水雅路さん(36)へ、群馬県で暮らす母・絹子さん(57)の想いを届ける。息子が思春期の頃に母子関係が悪化。20歳で家を出て以降はほとんど会話もなく、メールをしても返事はないという。絹子さんは、雅路さんの居場所は知っているものの、「本人が映っている映像などは全く見たことがない」と話し、今の姿や様子が見たいと望んでいる。
2016年に単身カンボジアにやってきた雅路さんは、養豚の経験もお金もない中、豚舎作りから全て手探りで事業をスタート。現在は従業員3人と養豚所を運営し、約150頭の豚を飼育している。最初に始めたのがエサの開発。豚がパイナップルや酢を食べると肉質が良くなることがわかり、それらが配合された液体をぬかに混ぜて与えている。このアイデアは、養豚の素人だからこその直感的な発想から生まれたものだという。
雅路さんが幼い頃に両親が離婚。母は働き詰めで3人の子どもを育ててくれた。だが教育熱心だった母に対し、思春期の雅路さんは強く反発。16歳で地元・群馬の高校を中退し、水商売の世界に入った。20歳のとき、母に絶縁を告げ東京へ。店を経営して成功を収めた。しかしお金を手にしても心は晴れず、このままでいいのかと考えるようになった雅路さんは、水商売を続けながら大検を取得。26歳で大学に入学し、生きる道を模索した。そんな頃、恩師である教授から「お前みたいなタイプはカンボジアとかが面白いと思うよ」とアドバイスをもらったことで、翌週には現地に向かっていたという。そこで食べた肉料理は決しておいしいとは言えず、また地元の人達が輸入される豚肉に不安を持っていると知った雅路さんは、この地で養豚業を始めようと決意。試行錯誤を繰り返し、開発したエサでおいしい豚を育てることに成功する。さらにその豚を使ったとんかつ屋を開き、6店舗経営するまでに。ところが、2019年にアフリカ豚コレラが発生して豚がほぼ全滅。とんかつ屋も新型コロナの影響で全て閉店してしまったのだった。
築き上げてきたものがゼロになった雅路さんだが、今、新たに取り組む事業が農業用の肥料作り。独学で配合した有機肥料は農家に無償で提供して効果を試し、徐々に成果も出てきている。また、水商売をしながら生き方に迷っていた頃、勉強とともに始めたのがボランティア活動で、現在も貧しい小学校や刑務所に料理を提供するなど活動を続けている。お金のためだけではないカンボジアでの生活。自宅では結婚の約束をする女性と同居し、公私共に充実した日々をおくっている。
思春期に感じたやり場のないイライラを生きるエネルギーに変えてきた息子へ、疎遠になっていた母からの届け物はテレホンカード。小さい頃、かわいい動物の写真が気に入った雅路さんのために買ってあげたものだが、家を出る時に母に突き返してきたという。母の手紙には「あの日から私の中では息子との絶縁がカードと結びついてしまった。だからその時のテレホンカードと一緒に親心を再び受け取ってほしいと願っています」と、届け物に込めた想いが綴られていた。さらに、「息子を理解したいという願いから2年遅れで同じ大学に入り、心理学を学びました。自己満足かもしれませんが、たとえ一歩でも近づき息子の世界を知りたいという気持ちでいる事に気づいてくれたら嬉しいです」と、手紙には知らなかった母の姿も。初めて知る事実に、雅路さんは涙。そして「たまには連絡して、仕事のことや結婚の話をしようと思います」と素直な気持ちを明かすのだった。