今回の配達先は、ハワイのオアフ島。ピアニストとして奮闘する川淵ココ歌織さん(47)へ、埼玉県で暮らす母・千枝子さん(74)の想いを届ける。歌織さんがピアノを始めたのは3歳のとき。千枝子さんは「私がピアノを弾けなかったので、娘には習わせたかった」ときっかけを明かす。そして「娘はシングルマザーなのですが、コロナの時に生活ができないぐらい収入が激減した。それがちょっと心配ですね」と今の様子を気に掛ける。
コロナ禍により観光業が大打撃を受けたものの、最近は観光客も増え、徐々にコロナ前の日常を取り戻しつつあるハワイ。現在、歌織さんはホノルルの中心地にほど近い人気のレストランで、週3日ライブ演奏を行っている。1年前からデュオを組むのは、キコさんことトムソン・パラキコ・イノスさん。ハワイアンレゲエというジャンルで数々のヒット曲を生む現地では有名なアーティストだ。観光客が多いこのレストランでは、客のニーズに合わせてハワイアンやポップスなどのカバーをメインに演奏。歌織さんの息子・スカイくん(10)も仕事場に同行し、ウクレレでライブに参加する。2019年にアメリカ人男性と離婚しシングルマザーの道を選んだ歌織さんは、この4年間、結婚式場での演奏をはじめ昼夜を問わずピアノの仕事に明け暮れ、スカイくんを育ててきた。
母の勧めでピアノを始めた歌織さん。しかし母は怖い存在で、「ピアノに関して感想を言われたり、褒められた記憶がない」と振り返る。進路を決めるときには、「ピアニストとしてやっていくのは無理」と言う母に反発し、何の相談もせず25歳で単身ニューヨークへ。あてもなく仕事を探し回り、ゴスペルグループのピアニストの仕事を手にした。やがてギスギスしたニューヨークが肌に合わなくなり、36歳のときにハワイへ。安らぎを求めて来たものの、元夫に振り回され、息子のためにシングルマザーとなった。以来ピアノ1本でスカイくんを育てているが、「褒められて育つ方が人間としての満足感や幸せ度が上がると思う。だから自分の息子は褒めて育てて、何でも話せる関係になれば」と、母とは正反対の方針で子どもに接している。
歌織さんがデュオを組んでいるキコさんは、公私にわたるパートナー。コロナ禍で仕事がなくなった時にレコーディングに誘われ、一緒に作業をするうちにいつのまにか彼氏になっていたとか。さらに、2人で製作したCDアルバムはハワイのグラミー賞と言われる賞にノミネートされるなど高い評価を得て、仕事の幅が大きく広がった。「好きなピアノを仕事にしつつ、息子も元気に育てて…。それに、ハワイでは1日に何回も癒されることがある。昔では想像できなかったことで、こんな生活があるんだなと思います」。苦労を重ねながらもピアニストとして生きることにこだわり、最高のパートナーと出会ってようやく穏やかな日々を手に入れた娘へ、母からの届け物は真珠のネックレス。添えられた手紙には、「あなたは前に言ってたことがありましたね。私に一度も褒められたことが無いって。そんなことはないと思うけど、うまく伝えてあげられなくてごめんなさい。あなたは小さい時からずっと私の自慢の娘です」と、母がこれまで言葉にできなかった娘への想いが綴られていた。母の本心を知り、涙を浮かべる歌織さん。そして「今が多分人生の中で一番幸せだと思います。I Love You」と母へ感謝のメッセージを伝えるのだった。