2019年に取材した、南米・エクアドル在住の高橋力さん(当時43)。世界屈指のカカオ生産地であるエクアドルでカカオ豆の輸出業を営みながら、国中を駆け巡ってまだ見ぬ新品種を追い求めていた。チョコレートの原料となるカカオは香りや味で分類され、主に世界で生産されている品種は3種類。しかし、いまだに発見されていない品種が数多く存在する。力さんはそんな神秘に満ちた植物に惚れ込み、2年前から首都・キトでカカオの事業を始めた。
力さんの実家は、栃木県にある酪農農家。跡取りの長男として生まれるが、大学卒業後「自分は本当に酪農に向いているのか」と悩み、2年間海外へ。世界を放浪する中で、日本にはない新しい農業を目の当たりにする。実家に戻った力さんは、旧態依然とした酪農場を変えようと人工授精師の資格を取得。積極的に牛の繁殖を行い、牛乳の出荷量を2倍近くアップさせた。だが、一緒に働く父とはことごとく意見が食い違い、声を荒げて言い争う毎日。結局、力さんは父の元を離れ新たな農業にチャレンジするため、2008年にエクアドルに渡る。そしてこの地で、無限の可能性を秘めたカカオに出会ったのだった。酪農の仕事を離れて10年以上経つものの、今も当時を忘れることはなく、特に人工授精師の免許を取り繁殖させた牛については強い思い入れがある。しかし実家の酪農場の将来については、別の人に渡すことも考えていた父と、「新しい農業経営の方法もあるし、遠隔でも管理はできる」という力さんで口論になり、物別れに終わったままだった。
新種のカカオがあると聞き付けると、車で6時間かけて現場に赴き、人が踏み込まないようなジャングルにも分け入る。こうして月の半分はエクアドル中を旅している力さん。会社の経営はギリギリだが、カカオ豆の輸出だけでなく、素材も製法もこだわり抜いたオリジナルチョコレートの製造も行っている。幻のカカオを見つけ出し、世界初のチョコレートを誕生させるという夢に奔走する息子へ、両親からの届け物は人工授精師の免許と、当時勉強に使っていたノート。添えられた母からの手紙には、かつては「力には任せられない」と牧場を手放すことも考えていた父が、その後「我が子が一番かな」「土地と家は力の名義にするかな」と話していたことが明かされていた。父の想いを知り、驚く力さん。そして「非常にありがたいし、私の名義にしていただけたら祖父からの土地をしっかり守っていきたい」と決意を語ったのだった。
あれから3年。山口智充がエクアドルの力さん(46)とリモート中継をつなぐ。チョコレート業界では“リッキー”という愛称で親しまれており、現在も未知なるカカオを探し続ける力さんは、最近も偶然、新品種を発見したという。さらに古代種の一種ともいわれるパイース種の苗を700本まで増やして育てており、「このカカオからチョコレートを作れたら世界初」と意気込んでいる。また2018年に立ち上げた自身のチョコレートブランド「ノエルベルデ」は、日本の百貨店のバレンタインフェアでも販売され、完売した商品もあるほど人気を博した。ぐっさんが、そんなチョコレートを試食。カメラの向こうで「おいしい!」と目を丸くするぐっさんを見た力さんはガッツポーズで大喜びする。一方、日本の実家については、父は「力さんに酪農を継いでほしい」と周囲に話しているそう。そんな中、力さんの代わりに酪農場で働いてくれる人との出会いがあったといい、現場は彼に任せながら、力さんが土地を継ぐ決心をしたと報告する。