過去の放送

#6474月10日(日) 10:25~放送
北海道

 今回の配達先は、北海道の上砂川町。チーズ職人として奮闘する勝長玲美さん(29)へ、千葉県で暮らす母・アリン沙羅さん(49)、妹の美麻さん(16)の想いを届ける。美麻さんは、姉が北海道へ行ったことにとても驚いたそうで、「都会でスーツを着こなすかっこいい女性になるような気がしていたので、田舎に行くとは思わなかった」と心境を明かす。アリン沙羅さんも「草刈りをするとか、ご近所付き合いをするとか、そんな姿が想像できなかった。どういう田舎暮らしをしているのか…」と、生活の様子を気にする。
 空知郡上砂川町は、北海道内で最も面積の小さな自治体。1987年に閉山するまでは炭鉱の町として栄えていたが、現在は人口2600人程の限界集落となっている。1年前、玲美さんはそんな町の誰も住んでいない地区に、チーズ工房「きまぐれ牧場」を構えた。かつて炭鉱で働く人が住んでいた団地跡の集会所を改装した工房で、強烈な匂いと濃厚な味が特徴の「ウォッシュチーズ」を作っている。地元でとれた生乳をもとにチーズを成形し、ウイスキーや日本酒などの酒や塩水などで表面についた菌を洗いながら約70日熟成させる。こうして完成したウォッシュチーズは、独特の香りがチーズ通に好まれるものの、日本ではあまりなじみがなく、売れる数は月に100個から200個。思うように売り上げが伸びない中、玲美さんはウォッシュチーズの美味しい食べ方を伝えるため様々な場所に足を運び、地元の人と直接話をしている。さらに新作のチーズは空知らしい商品にしようと、炭鉱にちなんで竹炭を利用。地元ホテルのレストランで採用されることが決まった。
 玲美さんがチーズ職人を志す転機となったのは、5年前。スイスと日本にルーツを持つ母が「2つの国の文化を体験して欲しい」と勧めたフランス留学がきっかけだった。語学留学のつもりで海を渡るも、現地で酪農に魅せられ、「ヤギのチーズを作りたい」と決意。帰国して十勝の牧場で修業した後、独立してヤギが飼える場所を求めて、北海道内の市町村に片っ端から問い合わせた。そこで「炭鉱の団地跡なら周りに迷惑が掛からないし、好きに使っていい」と言われたのが上砂川町。いずれ工房の周辺にヤギを放牧しようと準備を進めている。
 玲美さんが17歳の頃、両親が離婚。その後、母が女手一つで5人のきょうだいを支えてきた。きょうだいには、初対面の人とコミュニケーションをとるのが難しい自閉症の長男がいる。そのこともあって、母は家でヤギを飼い、長男に世話をしてもらいながら家族で食べるためのチーズを作っていた時期があったという。玲美さんはそんな家族が今後、必要となった時に頼れて、任せられる仕事もある第二の実家のような環境を上砂川町に作ろうと考え、ヤギを飼う夢を持っていたのだった。
 フランス留学で心を奪われた、ヤギチーズ作りの夢。そして離れて住む家族が安心できる場所を作ろうと奮闘する娘へ、母からの届け物は、かつて実家で飼っていたヤギに付けていたカウベル。「これはいい!ヤギに付けよう」と母の想いに大喜びする玲美さんは、「私が心配される対象だとなかなか家族も頼れないと思うので、最終的には『頼っても大丈夫』と思われるようにしっかりしたいですね」と、さらなる奮闘を誓うのだった。