2013年、南米のボリビアでツアーコンダクターとして奮闘していた本間賢人さん(当時27)。エクアドルに本社を構えるツアー会社に所属し、一人旅から団体旅行まで、季節に応じて中南米各地を案内。取材時は、ボリビア西部の高地にある田舎町・ウユニで仕事をしていた。この地で有名なのが「ウユニ塩湖」。静寂に包まれた水面に大空が映し出される絶景は“天空の鏡”と呼ばれ、湖の面積は四国の3分の2ほどにも及ぶ。水面が鏡のようになる現象は塩の大地に水が薄く張った場所だけで見られるが、空がきれいに映り込む理想的な水深はわずか2センチ。しかも水の量は天候によって刻々と変化し、数時間で景色が変わってしまう。そこで不可欠なのが、塩湖を知り尽くした地元ドライバーの協力。ツアー客を連れウユニ塩湖にやってきた賢人さんは、広大な塩湖に車を走らせ、ドライバーとともにポイントを探る。すると30分後、大自然が作り出す“天空の鏡”を無事発見。賢人さんは「お客さんを案内するときは毎回緊張する。こうやって水がちゃんとあるとすごくうれしいし、本当にホッとします」と胸をなでおろす。ツアーの昼食は、塩湖の塩を使ったバーベキュー。しかも塩湖の上にテーブルを広げて絶景の中でランチを楽しむという驚きの体験に、お客さんも感激する。実は賢人さんがこの企画を思いついたとき、会社の上司は手間とコストに収益が見合わないと大反対したが、それでも半ば強引に実現させた。お客さんを驚かせたい、心の底から楽しんでほしい…そんな思いが原動力となっている。
高校の頃に見たテレビがきっかけで南米に興味を持った賢人さんは、将来の進路に悩んでいた大学生のとき初めてエクアドルを訪問。衝撃を受け、大学卒業後はガイドや自然保護の仕事で南米と日本を行き来しながら自分の生きる道を探し続けた。2年前からはツアー会社に入りガイドの経験を積んできたが、さらにこの道を極めようと、会社を辞め独立することを決意したという。「南米なんて一生に一回来るか来ないかという場所。何度も来れないからこそ、一番を目指したい」。新たな一歩を踏み出そうとしていた息子へ、父からの届け物は、故郷・千葉の「彦一凧」。これまで、一代で会社を築き上げた父の姿や言葉に強く影響を受けたという賢人さん。そんな父が凧に込めた「どんなに厳しい風が吹いても、夢を叶えるために高く飛んでほしい」との想いに、「いつか両親を、僕が好きな中南米に招待できたら。それが一番の目標であり夢です」と涙ぐむのだった。
あれから9年。山口智充がボリビアの首都・ラパスの自宅にいる賢人さん(35)とリモート中継をつなぐ。この2年ほどはボリビア全土でも新型コロナウイルスが蔓延。そこで賢人さんも一時帰国していたが、感染状況も落ち着いてきたため、ボリビアに戻りガイドの仕事を再開しているという。ツアー会社からの独立後は、ウユニ塩湖で主にプライベートウェディングのツアーを開催しているそうで、これまでに夕景や満月の夜に撮影した幻想的なウェディングフォトを紹介する。また現在、賢人さんが観光業以外に力を入れているのが、ウユニ塩湖の環境対策。観光客が増えたことにより、塩湖周辺のゴミ問題が深刻に。そこで景観を守るため、地元の企業や小学校と連携し環境問題を訴えているという。「観光と環境は相反するものだけど、観光客が来ることによってお金を環境保全に回せるケースもたくさんある。なので、自分ができることをしっかりやっていこうと思う」と、賢人さんが取り組みを語る。