今回の配達先は、アメリカ。12歳で単身渡米し、モトクロスライダーとして奮闘する生嶋竜樹くん(14)へ、大阪で暮らす父・太郎さん(46)、母・有希子さん(40)の想いを届ける。モトクロスのアメリカ留学があることを知った竜樹くんは、小学6年生で学生ビザを取得して親元を離れた。当時の心境を、「心配だけど、本人がやりたいのであれば応援してあげようと思って」と明かす有希子さん。ただ普段は連絡もないそうで、太郎さんは「何か買いたいものがあるときだけ電話が掛かってくる」と苦笑する。
モトクロスは、起伏に富んだ未舗装のダートコースを飛び跳ねながら走り、スピードを競う世界的に大人気のモータースポーツ。カリフォルニア州のテメキュラバレーはそんなモトクロスの聖地と呼ばれ、近郊に数多くあるサーキットには世界中から有能なライダーが集まりしのぎを削っている。5歳からバイク好きの父親の影響でモトクロスを始めた竜樹くんは、めきめきと才能を開花させ、国内のタイトルを総ナメにした。そして2019年、12歳のときに自らの意思で単身アメリカへ。現地では専属メカニックのダニエルさんと、これまで数々の若手ライダーを一流選手に育て上げたフランス人トレーナーのヤニックさんがプロライダーを目指す竜樹くんをサポートしている。
ジャンプとコーナーリングを駆使して速さを競うモトクロスで、速さのポイントとなるのが、コースに深く刻まれた轍を利用したコース取り。うまくできるとタイムが格段に良くなるが、竜樹くんは転倒を恐れて攻めきれずにいた。日本では敵なしの天才ライダーでも持てる才能を全て出さずに勝てるほど世界は甘くはなく、ヤニックさんからは厳しい声が飛ぶ。コース練習では常に、気を抜けば大怪我に繋がる暴れるバイクを全身で操るため、身も心もヘトヘトに。だがその後もジムでのトレーニングが待っていた。帰宅するのは、モトクロスライダー専門の宿舎。運営者の下田あいさんが生活の面倒を見てくれている。あいさんの息子は、世界最高峰のレース「スーパークロス」で活躍するモトクロス界のスーパースター・下田丈選手。かつてあいさんも幼い息子の夢を叶えるため母子2人でアメリカに乗り込み、慣れない環境や金銭的な困難を乗り越えてきたのだ。モータースポーツの世界で親が子どもの夢を応援するには、人並み外れたお金と覚悟が必要であり、それを乗り越えて初めて下田選手のように巨大なスポンサーが付き稼げるライダーになる可能性が生まれる。これまで竜樹くんも好成績を残しているものの「1位じゃないとだめです。スポンサーもつかないし、丈くんみたいになれば(親が)一切お金を出さなくていいし」と置かれた環境を自覚する。
ある日は、プロを目指す同年代のライダーが多数集まる大会「2021 AMA Arizona Open MX Championship」に参戦するため、車で6時間かけてアリゾナへ。このところ好調の竜樹くんにとっては実力を試す格好の舞台でもあった。横一線からスタートするモトクロスは、第1コーナーにいかに速く突っ込めるかが勝負のポイントとなる。スタートのゲートが下りると竜樹くんは勢いよく飛び出すが、果たして結果は…。
夢を追い、わずか12歳で海を渡り2年。立ちはだかる本場アメリカの壁に1人で挑み続ける息子へ、両親からの届け物は好物の駄菓子と、地元の神社のお守り。そして添えられた手紙にはひとこと「世界のテッペンしかない」と、父の熱い想いが綴られていた。それを受け、竜樹くんは「絶対プロになるので、応援してください」と力強く応えるのだった。