今回の配達先は、アメリカ・ニューヨーク。メイクアップアーティストとして奮闘する靭健人さん（34）へ、兵庫県で暮らす父・信雄さん（70）、母・由美子さん（68）の想いを届ける。健人さんは新しいものを生み出し続けるファッション最先端の街で、日々刺激的な作品づくりに挑んでいるが、信雄さんは「普段の生活はどうしているのかなと思って…」と息子の様子を気にする。
　高校卒業後、美容学校へ進んだ健人さんは、アシスタントとして日本やアメリカでメイクの腕を磨き、2013年にニューヨークで独立。今やニューヨークメイクアップ界の“奇才”と称され、世界的ファッション誌などで活躍している。ある日の撮影は、フォトグラファーがディレクションするアート作品。モデル、衣装、フォトグラファー、さらには現場の雰囲気からインスピレーションを得て、瞬間的に斬新なメイクを作り上げる健人さんは、モデルの目元に真っ赤なパウダーを大胆に塗りつける。このメイクがまさに健人さんの真骨頂で、奇抜でアーティスティックな独自のメイクが絶大な評価を得ている。
　中学時代は陸上部で、走り幅跳びと三段跳びで全国ランキングにも入る選手だった。高校は推薦で陸上の名門校に進学し、将来を嘱望されたが、ケガをしてしまい記録は頭打ちに。ヤケになり、クラブも学校にも行かず遊び呆ける毎日を過ごすようになる。もはや退学まで考えていた健人さんを陸上部に呼び戻してくれたのが、同級生だった北京五輪男子400m日本代表の金丸祐三選手。健人さんはクラブに戻り、高校も無事卒業するが、実はこの頃遊んでいたことがメイクの道に進むきっかけになったという。当時“ギャル男”だった健人さんは、そこからファッションが好きになり、髪の毛やメイクに興味を持つように。そして卒業後再会した金丸選手とは、「互いに陸上とファッションで世界を目指そう」と約束したのだった。
　2019年、健人さんはアパレルブランド「kentina（ケンティナ）」を設立。“リメイクのアイデアを提案する”という実験的なコンセプトで、友人からの資金提供と自身の貯金を投じてニューヨークコレクションで発表すると、一躍注目を集めた。しかし、新型コロナウイルスの影響で資金繰りに苦しみ、立ち上げて間もなく活動は休止。厳しい状況は続くが、それでも今、健人さんはケンティナの再スタートに踏み切った。その理由は、健人さんの元に集まる若いアシスタントの存在。健人さんは自身の経験から、力量を問わずアシスタントを受け入れ、仕事に必要な技術とその面白さを伝えることに力を注いでいる。こうして様々なことに挑戦し華々しく活躍する健人さんだが、現在暮らすニューヨークを「人喰い街」と表現し、「心は折れて、折れて、折れての生活」だと明かす。特にコロナになった頃は資金が底をつき、稼ぐために動きだそうとしたところで街がロックダウン。今までやってきた何十年間が無くなる恐怖を感じていた時、手を差し伸べてくれたのは日本の両親だった。
　ニューヨークに渡って9年。厳しい状況に立たされながらも若者とともに前へ進む息子へ、両親からの届け物は、父が預かっていた陸上部のＴシャツと美容学校時代にメイクのコンテストで初めて獲得したメダル。Ｔシャツには友人・金丸選手のサインと「有言実行」の文字が書かれていた。「つらいことがあって目標を見失いそうになったら、原点に戻って目指した時に戻りなさい」。両親からのメッセージに、健人さんは「これは『言うな』と言われてるんですが…おかん、おとんのおかげやから。自分がどこまで行けるかわからんけど、行けるところまで全力で走りたいのでまだまだ応援よろしくお願いします」と改めて感謝の気持ちを伝えるのだった。