今回の配達先は、北海道石狩市。農家として奮闘する廣井佳蓮さん(25)へ、茨城県で暮らす父・威さん(58)、妹・帆奈さん(21)の想いを届ける。
札幌から1時間、石狩川の向こうに広大な農地が続く石狩平野。佳蓮さんはこの地にビニールハウスを4棟持ち、1人でミニトマトを作っている。2年間の研修を経て、2021年の春に就農。農家になってまだ1年目で、今育てているのが“農家人生1発目”のミニトマトになるという。朝5時に起床すると、すぐに家から車で5分の場所にある畑の様子を見に行くのが日課。その後、小学校2年生のときから飼う17歳の愛犬・チビの介護を済ませて、8時から夕方5時まで働く。ビニールハウス1棟だけで数千株が植わっているが、他の作物に比べてミニトマトは単価が高く、効率が良いのだそう。誰にも頼らず、女性1人で働きたい佳蓮さんは、学生の頃から「農業をやるならミニトマト」と決めていたという。最盛期は7月から9月。冬になるとハウスが雪に埋まってしまうため、降り始める前に土壌づくりを行う。長野、新潟と豪雪地帯で生まれ育ったため冬支度は手慣れたもので、大学の頃に覚えたという耕運機を自ら操縦して農地を整備する。2022年春にはビニールハウスを8棟に増やす予定だ。
幼い頃、母の実家がある長野で暮らしていた佳蓮さんは、とても引っ込み思案でいじめられることもあった。そこで娘には「たくましく育ってほしい」という母の勧めで、農業学校へ転校。だが10歳のとき、最愛の母が肺がんで逝去する。悲しみの中、「今までママに甘えていた自分が嫌だなと思った」という佳蓮さんは、この頃から誰にも頼らない生き方を探すようになったという。父は医者で、昔から仕事一筋。ちゃんと会話をした記憶もなく、進路に悩んでいたときは「お前なんか何もできないよ」と言われ、美術大学への進学を反対された。そんな父や家から離れたかったという佳蓮さんが辿り着いたのは、くしくも亡き母が楽しさを教えてくれた農業。北海道の農業大学に進学し、女性1人でも農家ができる場所を手当たり次第に探してようやく見つけたのが石狩だった。こうと決めたら一直線の佳蓮さんが、身一つで石狩にやってきて3年、集落は知り合いばかりになった。住民からは「女の子が1人で就農する道を彼女がつけてくれたら、この先も女性が活躍できる農業が広がるんじゃないか」と期待され、「そうなったらうれしい」という佳蓮さん自身も「50年やるのが目標」と言い切る。
石狩での日常を初めて見た父・威さんは、「一生懸命やっていましたね。びっくりしました」と驚いた様子。そして思い立ったら行動を起こすところや、思い切りのよさなどは「母親に似てますね」と認める。人生のすべてを農業に捧げると決めた娘へ、家族からの届け物は亡き母が特別な日に決まって作ってくれた思い出のクッキー。生前、娘たちのために残していたレシピを基に、妹の帆奈さんが手作りしたものだ。そして父からは、不屈の精神の持ち主といわれる作曲家・ベートーヴェンのCDとともに、これまでの想いを綴った手紙が。明るい表情で読んでいた佳蓮さんだが、「近くにいすぎたらケンカになるけど、遠くから大事に思っている。父もそういう風に思ってくれていたことが手紙で初めてわかったし、もらえてよかった」と、次第に涙があふれる。