2018年、メキシコのオアハカでたこ焼き店を経営していた竹下幸子さん(当時33)。世界遺産でもあるオアハカは、カラフルな街並みが国内外の観光客から人気を集める都市で、幸子さんは1年前にオアハカで初となるたこ焼き店「たこ焼きサチータ」を開業した。たこ焼きを選んだのは、ソースやマヨネーズがメキシコ人の好みに合うのではないかと感じたからだというが、当初はたこ焼きそのものを知らない人も多かったという。1年経った今では、客のほとんどが地元のリピーターだ。幸子さんとともに店を切り盛りし、厨房で焼きそばや餃子などのメニューを担当しているのは、16歳年上の夫・和之さん(当時48)。メキシコで出産した長女の祭ちゃんはまだ4カ月で、厨房の片隅にいる祭ちゃんが泣けば和之さんが調理しながら抱きかかえ、2人の手が回らないときはお客さんが面倒をみてくれている。
かつて語学留学でオアハカを訪れた時に、色とりどりで明るい街の雰囲気と、好き嫌いがはっきりしているメキシコ人の人間らしさに惹かれたという幸子さんには「自分がより自然に振る舞うことができるオアハカにいつか住みたい」という思いがあった。さらに、大学生の頃からは「30歳になったら経営者になる」という夢があった為、経験を積むため企業へ就職。その就職した会社の上司が和之さんだった。交際1年半でゴールインした後も同じ職場で働き続けていたが、30歳を前に退職。たこ焼き店をオープンするため希望の地メキシコへ渡った。そして和之さんも、妻の夢を支えるため会社を辞める決断をしたのだった。
店が繁盛し手狭になってきたため、夫婦は次の展開を見据えて、住居と店舗を兼ねた新しい物件を探し始めた。幸子さんにはメキシコで現地の従業員を育てて、日本とメキシコの懸け橋となるような人材育成をしたいというさらなる夢があり、「“生きるために働く”というよりも、幸せになるために生きたうえで、“仕事をしているからより幸せ”だという気持ちを共有していきたい」とその思いを語る。大好きな街で、支え続けてくれる夫とともに夢へと突き進む幸子さんへご両親から届けられたのは、いつも年末になると両親が手作りしていた家族新聞。「幸子特集」として制作された号外には、幸子さんと和之さんを応援する気持ちがぎっしりと詰め込まれていた。
あれから3年。ぐっさんがオアハカにいる幸子さん(36)とリモート中継をつなぐ。当時は観光都市としてにぎわっていたオアハカ。コロナの影響で客足は大きく減ったものの、今では生活や客足は戻りつつある。「たこ焼きサチータ」は取材当時より、3倍の広さの店舗に移転。夫婦二人三脚の営業からスタッフを3人雇うほど忙しくなった。メニューも増え、中でもブリトー寿司や野菜うどん、抹茶ケーキなど日本ならではの料理が人気を集めている。3歳になった祭ちゃんは幼稚園に通うようになり、店のお手伝いをすることも。「スタッフにも幼稚園の送り迎えをしてもらったり、みんなに支えてもらいながらなんとか店と子育てを両立しています」と変わらず奮闘する幸子さん。また最近地元で行われた、先祖の魂を迎え祝うというメキシコの伝統行事「死者の日」の模様と、家族で参加し楽しんだ様子も紹介する。