今回の配達先は、北海道。女子プロレスラーとして奮闘する神田愛実さん(27)へ、大分県で暮らす母・好美さん(50)の想いを届ける。娘からプロレスラーになると聞いたときは、「びっくりしたし、大反対した」という好美さん。「やっぱりプロレスって、殴り合いや蹴り合いをして痛い思いをするし、自分の子どものそういう姿を見たくなかった」。そのため、上京してプロレスラーになりたいという愛実さんとはケンカの毎日だったという。
愛実さんが所属する「北都プロレス」は札幌を拠点に全道各地で興行を行う、選手わずか5人の小さな団体。赤字覚悟で明るく楽しく過激な試合をするのがモットーで、愛実さんはそんなアットホームな団体に魅了され、今年の3月に東京から移住した。女子選手は愛実さんただ一人だ。ある日の試合会場は、北海道の東に位置する釧路市。今回は関東の団体から招いた星ハム子選手と対戦する。過去何十回と戦いながら一度も勝ったことがない強敵に気合が入る愛実さんは、序盤から激しい攻撃を続けるが、ベテランのハム子選手も容赦なく反撃。それぞれ得意技を繰り出して会場を沸かせるも、結果はハム子選手が勝利。裏では悔し涙を流す愛実さんの姿があった。しかし、試合後もセコンド業務やファンとの交流など仕事は山積みで落ち込んでいる暇はない。観客が帰った後は選手たち自らリングをばらして会場を片付け、札幌にとんぼ返り。広大な北海道では、300キロ以上の深夜移動も当たり前だという。
愛実さんが小学校1年生の時に両親が離婚。母と兄の3人で暮らす中で、ふとテレビで目にしたプロレスの世界に魅了されていった。そしてプロレスラーになるため、中学を卒業したらすぐに上京すると決意するが、母は大反対。しぶしぶ高校に進学するもののすぐに行かなくなり、母とは毎日言い争いになった。当時、愛実さんにとって高校や母親の存在は「夢を邪魔するもの」であり、手当たり次第物をぶちまけ、家の中を荒らすことで拒否の感情を表わしていたという。状況はひどくなるばかりで、このままでは娘が壊れてしまうと見かねた母はある条件を出す。それは「自分の力で100万円稼ぐこと」。達成できればいつでも高校を辞めていいと言われ、すぐにアルバイトを始めた愛実さんは2年で100万円を貯め、東京でプロレスラーとして活動を開始したのだった。現状、プロレスだけで食べていくことは厳しく、生活費のほとんどはアルバイトで賄っている。だが「それでも北都プロレスがよかった。お客さんも選手も一体化して盛り上がる、どこの団体にもない魅力がある」と後悔はない。ただ、「今振り返っても、15~17歳の一番荒れていた時は本当に申し訳なかったと思う」と、母を傷つけたことだけは悔やんでいる。
釧路の試合から1週間後、富良野で行う試合の会場はパチンコ店の駐車場。気温7度の中、屋外に設営されたリングに100人を超える観客が集まった。愛実さんの対戦相手はまたしても星ハム子選手。地元大分の地酒から命名した必殺技「八鹿落とし」をひっさげてリベンジに燃える。そんなプロレスに人生を賭ける娘へ、母からの届け物はダウンジャケット。これから初めて北海道の大雪を体験する愛実さんは「これで冬が越せる」と大喜びする。添えられた手紙には応援のメッセージと、「どうしてもダメやって思ったら、その時は大分に帰ってきよ」という言葉が。愛実さんは「帰ってきていいと言ってくれる場所があるから頑張れる。でも本当に帰るときは、私がもっと強くなって人間としてもプロレスラーとしてもトップを張った時だと思ってる」と、これからもプロレスの道を突き進むと誓うのだった。