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#62911月14日(日) 10:25~放送
栃木県

 今回の配達先は、栃木県宇都宮市。獣医師として奮闘する別所麻由子さん(29)へ、島根県で暮らす父・善弘さん(66)、母・由枝さん(64)の想いを届ける。「一人娘なので、そろそろ帰ってきて結婚を考えなきゃいけない」と善弘さん。「そういう時代じゃないかもしれないけど、家族は一緒にいなきゃいけない。代々島根に居るので、いずれは帰ってきてここで生活していくものだと思っています」と、由枝さんとともに娘の帰りを待ちわびている。
 宇都宮市の中心地から車で30分ほどの場所にある「宇都宮動物園」は、40年前に開園した日本でも数少ない民間経営の動物園。小規模ながらホワイトタイガーやカバなどおよそ90種類、400点の動物を展示している。動物と人との距離が近く、地元の人々からも愛されているが、客足は年々減少。さらにコロナ禍で大打撃を受けていた。資金不足からスタッフの数も少なく、獣医師である麻由子さんも接客から動物の世話まであらゆる作業を担当している。施設も老朽化が進み、麻由子さんの獣医としての作業場は年季の入ったプレハブの建物。資料倉庫を改装した獣医室は、夏は暑く汗だくになるので、頼み込んでエアコンを取り付けてもらったが節約のため、動物がいる時にだけ電源を入れるという。そんな麻由子さんの仕事は、開園1時間前の午前8時からスタート。まずはペンギンのエサやりと病気の治療に取り掛かる。次は自らトラックを運転して園の外へ。広場に到着すると草刈り機を手にして、草食動物のエサとなる草をトラックいっぱいに刈り取る。そして草刈りから戻るとすぐに、近隣の市場でもらったジャガイモやニンジンなど野菜を手慣れた包丁さばきでエサ作りを始め…と、休む間もなく飼育員の仕事に追われる。
 両親が動物好きだったことから、生まれた時から犬やうさぎ、昆虫など常に生活の中に動物がいる環境で育った麻由子さん。将来は動物に関わる仕事に就いてケガや病気から動物の命を救いたいと、獣医学科へ進学する。就職先は動物園を希望していたが、新規募集がほとんどない狭き門。そこで飼育員としてでも働きたいと考えていたところに、飼育員と獣医師の兼務を募集していた宇都宮動物園を見つけ就職を決めた。しかし、地元・島根を離れることに両親は猛反対。そこで「少なくとも3年はやりたい事をやらせてほしい」と言って出てきたのだった。働き始めて5年、獣医師としてはまだまだ経験不足で、今の環境には不安や悩みもあるものの「それでも居続けるのは、ここの動物たちが一番かわいいから」と仕事の手を休めることはない。親と約束した期限はすでに過ぎているが、「気にはならないこともないけど、最近は電話すると、1に『戻ってこい』、2に『結婚しろ』と、必ずその話が出てくるので、もう嫌なんです」と本音を漏らす。
 この日は先輩飼育員とともにホワイトタイガーの採血をするトレーニングを行うことに。慣れない作業に手こずる麻由子さんだが、実は過去に瀕死状態だったホワイトタイガーの子の命を懸命な治療で救うなど大きな仕事を果たし、先輩飼育員からも頼られる存在になっている。夢だった獣医師として一歩一歩成長している娘へ、両親から届いたのは母と一緒に歩んだ幼い頃の麻由子さんと大好きだったペットの写真。添えられた手紙には、今の道を理解しながらも、故郷に帰ってきてほしいという母の願いが綴られていた。それを受け、麻由子さんも「やりきったと思えるまでは頑張ります。いつかは戻るから今は応援していてほしい」と笑顔で想いを伝えるのだった。