2018年、ファッショントレンドの発信地であるアメリカ・ニューヨークで、シューズデザイナーとして奮闘していたピロ貴子さん（当時46）。レディースのシューズブランド「モダンバイス（Modern Vice）」は世界的歌姫のビヨンセからマンハッタンのビジネスウーマンまで、流行に敏感な女性たちが愛用するシューズメーカーで、エッジを効かせたインパクトあるデザインが特徴。貴子さんは専属デザイナーとして、すべての靴のデザインを任されていた。取材時も、稲妻や星、フリンジを大胆にあしらったど派手なゴールドのブーツを完成させたが、一方で社長の好みが強く反映されるモダンバイスの靴とは別に、自分の世界観を自由に表現したいという思いも。そこで自身のブランド「サークルスリー（Circle3.nyc）」を立ち上げ、ファッションシーンへの挑戦を本格的にスタートさせたのだった。
　貴子さんの実家は祖父の代から続く東京・銀座の老舗靴店で、3人姉妹の二女として生まれた。中学から大学まで美術系の学校で学ぶうちに靴をデザインすることの面白さに気付かされ、卒業後は実家でデザイナーとして働くことを決意。ところが、創業者の孫が携わることに対して周囲からは「どうせ孫だから」などと心無い言葉が聞こえてきたという。「外の世界に出て自分一人でやりたい」との思いを強くした貴子さんは、本場イタリアに留学。靴作りの名門「アルス国際製靴学校」を首席で卒業し、その後もヨーロッパ各地で修業を重ねた。帰国後、シューズデザイナーとして独り立ちした貴子さんは、結婚、出産を経て、遂に2012年、ファッションの最先端・ニューヨークに乗り込んだ。
　「サークルスリー」のスニーカーは、マンハッタンのセレクトショップでも販売がスタートし、貴子さんも自ら販売員として店頭に立っていた。「デザインをするところからお客様にお届けするまで、一貫して全部をやれることがすごく幸せ」と語る貴子さん。ニューヨークで靴の仕事を受け継ぐ娘へ、父からの届け物は貴子さんが留学していた「アルス国際製靴学校」の卒業証書。一度は実家で働こうとしたもののうまくいかず、それをばねにイタリアに渡った貴子さんが、靴の世界で生きる決意として父に渡したものだった。どんなときも娘を応援していてくれた父の想いに触れ、涙があふれる貴子さんは「おかげさまで今があるので、期待してくれている以上は頑張ります」とこれからも靴作りの道を進むことを誓ったのだった。
　あれから3年。ニューヨークの貴子さん（49）とぐっさんがリモート中継をつなぐ。コロナ禍により一時は街がロックダウンされ、人の姿が全くなくなったというが、2021年6月に非常事態宣言が解除。今は「ニューヨークのエネルギーとパワーが戻ってきてる感じです」と、貴子さん自らが自転車に乗って、多くの人でにぎわうタイムズスクエアやブロードウェイの様子をリポートする。また貴子さんのブランド「サークルスリー」の現在についても紹介。レディースだけでなくメンズシューズも手掛けるようになったそうで、さらにはアメリカの人気音楽番組とのコラボが実現。著名なラッパーやハリウッド俳優が貴子さんの靴を履いているという。「靴は人をあらゆる場所に導いてくれて、素敵な出会いをさせてくれる魔法のアイテム。遊び心があってファッショナブルで、快適なスニーカーをこれからも作り続けていきたい」と、ぐっさんに靴への想いを語る。