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#62610月24日(日) 10:25~放送
パラオ

 2010年、南太平洋のパラオ共和国で海洋生物の研究を行っていた坂上治郎さん(当時43)。小さい頃から、暇さえあれば近所の川へ魚とりに出かけていたといい、大学では水産学を学んだ。卒業後、一度はサラリーマンとして働いたものの魚への情熱を抑えることができず、10年前に会社を辞めパラオへ。大学や団体には所属せず、個人的に研究活動を続けていた。湿地や川、海など多様な自然環境が集まるパラオは、魚の調査には最適な地。治郎さんは川の中でも本格的なスキューバーダイビングのセットを装着し、魚を観察する。時にはワニが生息するようなエリアへも踏み入り、没頭すると危険な場所だということも忘れて1日中水の中で過ごすことも。こうしてこれまで、人が行かない場所や時間帯に調査をすることで数多くの成果をあげてきた。最近も「すごい魚を見つけた」といい、「今は具体的に言えないんですが、魚類学では今世紀最大の発見だと思います」と打ち明ける。そんな魚の研究にはお金がかかるものの、そこから収入を得ることはほとんどない。そのためダイビングガイドのアルバイトや、図鑑への写真提供で生計を立てていた。現在は独身。かつては恋人もいたが「出て行ってしまいました。こんなことばっかりやってるので付いていけなくなるんじゃないですかね」と苦笑する。
 治郎さんが今、最も情熱を傾けている魚が「イレズミフエダイ」。1年に数日だけ、10万匹もの群れを作って産卵を行うという謎に満ちた魚で、その研究をしているのは世界でも治郎さんだけ。6年前から調査を始め、独自に産卵の日と場所を割り出した。その当日、成長過程を調べるため卵の採取を目指す治郎さんはパラオ南端のペリリュー島沖へ。海に入ると狙い通り、イレズミフエダイの大群が集まっていた。群れを目当てにサメも近づく中、いよいよ産卵が始まると、治郎さんは激しい潮の流れに逆らいながら何度も採卵を試みる。そして見事、直径1ミリにも満たない卵を採取。調査は大成功を収めたのだった。魚に魅せられ、たった1人で人生の全てを研究に捧げる息子へ、届け物は父が所有していた魚の本。子どもの頃に繰り返し読んだ1冊であり、治郎さんは「僕のバイブルでした。親はちゃんと見ていてくれて、応援してくれているんだと感じます」と、届けてくれた両親の想いを受け止めたのだった。
 あれから11年。ぐっさんが中継をつなぐと、治郎さん(54)の姿は高知県の柏島にあった。コロナ禍により、昨年から出入国ができなくなったパラオ。2020年11月にようやく日本に帰れたものの今度はパラオには戻れない状態になったため、現在は日本に生息する魚種の3分の1が存在するといわれる柏島に滞在し、友人のダイビング会社を手伝っているという。
 2010年当時、「大発見をした」と語っていた治郎さん。捕獲したのは「パラオムカシウナギ」と名付けられたうなぎの祖先に当たるような魚だったと明かす。およそ2億年前からほぼ形を変えず生き残っていたものと見られ、論文を発表すると、魚類学における歴史的大発見として世界的なニュースになったという。そして、実はこの11年の間に家族ができたといい、ぐっさんに紹介する。カメラの前に現れたのは妻の祐子さん(43)と息子の太郎くん(3)。祐子さんは、治郎さんの元から出て行ってしまったかつての恋人で、復縁して日本とパラオの遠距離で結婚生活をおくっていた。「ここまできたらとことん好きなことをやってほしいし、私と子どもは日本で安定した基盤を作って、いつでも戻ってこれるようにしたい」という祐子さん。妻の理解ある言葉に、治郎さんも「ありがたい話です」と照れ笑いする。