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#62310月3日(日) 10:25~放送
オランダ

 2016年、オランダのアムステルダムでパティシエとして奮闘していた加藤麻里さん(当時32)。町から少し外れた場所にあるアパートの自宅キッチン兼工房で、インターネットを通じてケーキの受注制作をしていた。麻里さんが作るケーキは繊細かつ独創的で、その腕前はイギリスの権威ある大会で受賞したほど。だが実は、麻里さんは重度の卵アレルギーという大きなハンデを抱えていた。誤って口にするとアナフィラキシーを起こし、血圧の異常低下や意識障害を引き起こして、最悪の場合は命を落とす危険も。しかし、ケーキの土台となるスポンジに卵は欠かせない食材。作業中は手袋を二重にして素手で触れないよう細心の注意を払い、試食の際は味と食感だけ確かめるとすぐに吐き出す。口の中がかゆくなるが、チェックのためには仕方がないという。
 子どもの時、ケーキを作ると家族みんなが「おいしい」と言ってくれることがうれしかったという麻里さんは、22歳でケーキ職人に。だが幼い頃からの夢を叶えたそのわずか2年後、突如卵アレルギーを発症しドクターストップがかかってしまう。「やりたかったことが急にできなくなったこと、そして何より、もう一生ケーキが食べられないことがつらかった」。ケーキの道を諦めた麻里さんは、調理の専門学校で教員として働き始める。そんな中で出会ったのが、「シュガークラフト」。粉砂糖を粘土状にしたペーストで花や装飾を造形するという卵をまったく使わない技術で、「これなら私でも勝負できる」と、麻里さんは本場イギリスへ留学。世界最大のシュガークラフトコンテストをはじめ6つの賞を受賞するまでになり、習得した技術を武器に大好きなケーキの世界へと戻ってきた。
 麻里さんのケーキはフルオーダーメイド。シュガークラフトの技術を活かした立体的なデコレーションが特徴で、頭の中で思い描いたイメージを徐々に形にしていく。最も得意とするのはバラの花で、1枚1枚、丁寧に形作った繊細な花びらを慎重に貼り合わせ、さらに色を付ける細工を施してまるで生きているような砂糖の花を咲かせる。シュガークラフトは時間も手間もかかるため大量生産はできず、経済状態もギリギリだというが、「私のケーキを食べた人が笑顔に変わる」その瞬間のために作っているという。命に関わるほどのアレルギーを抱えながらもアムステルダムでひとり奮闘し、「将来はお店を開けたら…」とさらなる夢を追い続ける娘へ、日本の両親から届けられたのはクッキーの型。それはシュガークラフトに出会い、もう一度パティシエの道へと踏み出す決心をした時、最初に手元に集めたという忘れがたい道具だった。「これを送ってくれたということは、日本に“帰って来い”じゃなくて、“やってこい”ということですね。やりたいと思って戻ってきた世界なので、最後までやり切っていこうと思う」と、麻里さんは気持ちを新たにしたのだった。
 あれから5年、ぐっさんが麻里さん(37)とリモート中継をつなぐ。カメラ越しに麻里さんが披露したのは、ドレスを着た赤ちゃんをかたどったシュガークラフトのケーキ。娘の生後100日のお祝いに作ったものだといい、麻里さんの腕には娘のえまちゃん、その傍らには夫であるユリツァさんの姿が。一昨年、結婚を機にオランダで最も古い街ともいわれるマーストリヒトに移り住んだ麻里さんは、これまでと同じようにケーキ職人として活動。現在、オランダも新型コロナウィルスの影響が大きいため一時は仕事が激減したというが、ケーキの腕は評判で、徐々に注文も増えてきているという。また5年前に語っていた「お店を持ちたい」という夢について、ぐっさんに現状を報告する。