今回の配達先は、北海道の北見市。水族館の飼育員として奮闘する山本直和さん(21)へ、大阪府で暮らす父・和利さん(46)、母・惠さん(48)の想いを届ける。息子から初めて北海道に行くと聞いたとき、和利さんは「いきなり北海道とは思っていなかった」と驚いたという。惠さんは、大阪とは違う厳しい気候や初めての一人暮らしを心配しその気持ちを訴えたというが、「彼自身は希望に燃えていたので、『お母さん邪魔しないで』という感じでした」と当時を振り返る。
直和さんが働くのは、北見市の市街地から車で1時間弱、大雪山の麓の留辺蘂(るべしべ)という町にある「北の大地の水族館」。広さはテニスコートたった3面分という淡水魚のみを展示する水族館で、1日の平均入館者は200人ほど。大都市の水族館に比べると規模は格段に小さいものの、世界初の展示方法を採り入れるなど創意工夫を凝らして集客に力を尽くしている。直和さんが担当するのは、この水族館を代表する魚であり、北海道の一部にしか生息しない幻の魚「イトウ」。大きいものでは2メートル近くに成長する野生の大型のイトウを特別に捕獲して、現在11匹を飼育している。加えて6月に生まれたイトウの赤ちゃんも担当。日々成長して見た目が変化するため、直和さんのアイデアでネームプレートの写真を随時撮り直している。大きな水族館ではプロのカメラマンに依頼することが多い写真撮影も、この水族館では直和さんが受け持つ。スタッフが7人しかいないため、飼育だけでなくあらゆる業務をこなさなければならないのだ。
幼い頃、両親に連れられ魚や虫取りによく出かけていた直和さん。生き物のことをあまり知らない母に、いつも名前や生態を教えてあげていたという。そんな経験がきっかけで「水族館で働きたい」という思いを抱くようになり、大阪動植物海洋専門学校に進学。一方その頃、アルバイトをしていた大きな水族館では、飼育員は飼育のみ、企画を考えるのは広報部…と完全に分業されていたことから、接客などにも携わりたかった直和さんは小規模の水族館に目を向けるようになる。その中で知ったのが「北の大地の水族館」。館長に猛アピールを続けていると運良く欠員が出て、内定をもらうことができたのだった。たまにミスはあるものの館長から仕事熱心なところを見込まれ、最近では水族館の顔であるイトウ水槽の清掃という新たな仕事を任されるように。また休日になると北海道を回って生き物の写真を撮影。ある日は車で300キロを走って北海道の南東にある霧多布岬を訪ね、お目当ての野生のラッコの姿をカメラに収めた。撮りためた写真はいずれ館内で展示できたらと考えている。こうして北の大地にどっぷりと浸かり充実した毎日をおくる直和さんだが、実は大阪を離れたのは仕事以外にもう1つ理由があった…。
北海道に来て1年半。「今はまだ下っ端の一飼育員だけど、北の大地の水族館を背負っていけるような飼育員になりたい。大きくいうなら館長になれるぐらい、この土地で頑張りたいと思っている」と語る直和さん。北海道で生きていくと決めた息子へ、母から届けられたのはカブトムシやフグなどの生き物の絵。直和さんが小学生の時に描いたものだ。添えられた手紙には、息子が遠くに行ったことを寂しく思いながらも、「この絵を見てこれからも頑張って」と幸せを願う想いが綴られていた。直和さんは「なんだかんだ言いながらも親のことは一番好きなので、『ここまで育ててくれてありがとう』という気持ちはどんな時でも忘れたらあかんなと思っています」と涙ぐむ。そして「コロナが落ち着いたらすぐにでも帰りたいですね」と率直な想いを明かしたのだった。